コラム

揶揄の標的にされた沖縄──ひろゆき氏発言の考察

2022年10月20日(木)12時14分

沖縄は日本なので、なまじ「差別」と訴えて訴因にすることが現在では馴染まない。こういった弱いところ、取り上げてもダメージが少ないところに、ネット右翼のヘイト指向性は向かっている。

「沖縄揶揄」がこのように膨れ上がったのは、間違いなくゼロ年代に発生した「在日特権」という飛び道具が彼らの中で使えなくなったからである。「在日特権」がほぼほぼ封じられた代わりに「沖縄揶揄」が出てきた。これは偶然などではない。

蒸気機関車に例えたネット右翼は、常に新しい"石炭"つまり燃料を供給しないといけない。つまり常に新しい攻撃目標を欲しているのである。それが沖縄である。

沖縄は間違いなく揶揄の標的になっている。訴訟のリスクが少ないからこうなったのである。逆にいえば逐一民事事件にすればよいのではないか。既になっている場合もあるが、いまからでも遅くないから各種さまざまの「揶揄」案件を民事事件にした方がいい。揶揄も立派な侮辱として解釈すること(訴因になりうる・そもそも侮辱は刑事事件になりうる)ができるからだ。番組関係者は原告被告の正義の優劣に関わらず「裁判沙汰」を最も嫌う。民事であっても現在進行形で揉めているという事自体が嫌なのである。

仮に沖縄県民約146万人を敵に回しても、本土の1億1000万人に動画が視聴されたり、本や雑誌が買われるのなら、別にどうということは無い──。商業的利益の観点からも沖縄は「捨てても良い」存在として映っている。とりわけ中堅・零細出版社はなりふり構わず凋落した売り上げの維持を目論んでいる。売り上げの為ならどんなに下品な事でも是認するのだ。つまり永遠のサンドバッグとして沖縄が機能してくれればそれでよい。私はこの現状を異常だと思うが、この現状を甘受していて本当にいいのだろうか。

無論、「在日特権」や「アイヌ否定」は影響力を相対的には失ったものの、根本的にはその路線は変わらないだろう。しかしこれからのネット右翼の新世代は既に古臭くなった「在日特権」などをそこまで口にはしまい。

「沖縄の人っておかしくない?米軍基地に反対する人って犯罪者なんでしょ?」

これが5年後、10年後にネット右翼以外の領域でもスタンダードになるのではないか。その時に、違う、違う......といくら言っても、彼らは鼻で笑うかもしれない。「沖縄の人は馬鹿なんだね、本当の真実を知らないんだね」と。

※当記事はYahoo!ニュース個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均先物3万5000円下回る、トランプ「相互関

ワールド

英、米「相互関税」への対抗措置急がず 冷静に対応=

ビジネス

米国株式市場=上昇、相互関税発表にらみ値動きの荒い

ビジネス

NY外為市場=ドル/円上昇、対ユーロでは下落 米相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story