コラム

保守派に見放された菅政権の1年

2021年09月07日(火)17時57分

特に決定打だったのは、2021年4月19日における米誌ニューズウィークによる菅総理へのインタビュー報道である。ここで菅は、「われわれは何度か改正を試みてきたが、現状では非常に難しいと認めなければならない。国会で可決されなければならないので、政権の考えで簡単に変えられるようなものではない」(2021年4月19日,産経新聞)と憲法改正を事実上あきらめた、ともとれる発言を発した。憲法改正を金科玉条の如く叫んできた保守派にとって、技術的に改憲がいかに不可能であっても、それを率直にいう事は禁忌であった。第二次安倍政権では、こういった弱腰姿勢は漏らさず、「次の参院通常選挙で改憲発議に必要な2/3を得る」を常に合言葉にした。安倍前総理の憲法改正への熱情と、菅総理のそれとは比べようもなかった。このころから、菅政権に対する保守派の期待は、潮が引くように退潮していった。

3)オリンピック開催と窮地の菅政権

菅政権の強力な意向で開催された東京五輪の開会式(2021年7月23日)で、保守派による菅政権への期待は徹底的に粉砕された。開会式に於いて今上天皇からの開会宣言の際、天皇陛下の隣に座っていた菅総理が不起立のままだったことについて、保守界隈から「菅は不敬である」との大ブーイングが起こったのであった。事の真相は、天皇陛下が開会宣言をする直前に流されるはずだった「ご起立ください」という場内アナウンスができないミスのためだったが、とにもかくにも天皇の開会宣言に際して菅総理が当初不起立のままであったことは事実であり、これが「皇室への畏敬の念」を宰相としての資質の大きな要素として判定している保守派からは徹底的な顰蹙を買った。これによって保守層からの菅政権への期待・支持は完全に離反した。

保守派とそれを支持するネット上の右派的勢力は、飲食店をはじめとする中小自営業者が多い傾向にある。菅政権で飲食店を過度に締め上げたことなどの実際経済的な都合においての皮膚感覚としての反発も多いところであったが、保守派が当初「安倍政権の継承者」として期待した菅政権が、保守派が理想とする「安倍政権的国家観、イデオロギー」を全く踏襲しない宰相であると判明するや、保守派からの菅政権への期待はまるで剥離する様に離反していった。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story