コラム

リコール不正署名問題──立証された「ネット右翼2%説」

2021年03月01日(月)14時57分

続いて2016年参議院選挙では、保守界隈やネット右翼界隈から圧倒的・翼賛的な支持を得た政党と候補者を合算した。前述した2014年の総選挙で壊滅した「次世代の党」はこの時点で「日本のこころを大切にする党」に改称していたが、政党名票で約55.5万票。続いて、候補者名での得票で、青山繁晴氏約48.2万票、片山さつき氏約39.3万票、山谷えり子氏約25万票、山田宏氏約15万票、宇都隆史氏約13.8万票(ここまで自民党、すべて当選)。そのほかに、三宅博氏約2.3万票(維新、落選)。中山成彬氏約7.8万票、西村真悟氏約4.2万票、ボギーてどこん氏約3.5万票(すべて"日本のこころ"、全員落選)。

基本的な事実を確認しておくと、参議院比例代表は政党名か候補者名のいずれかで投票することができる。よって政党名と候補者名の重複はない。以上、当落を含んだ彼らの全てを足していくと、その得票総数は約214.5万票となり、有権者人口の約2.1%となる。

このような数字を元に、私の永年の取材や研究実績を加え、私は「ネット右翼2%説」を強固に唱えることとなった。今次、「愛知県知事リコール署名活動」は国政選挙ではないが、その主張の殆どが保守界隈やネット右翼界隈の外側に浸潤しえないものと考えると、2%を援用できる。結果としてはリコール署名の真正のものは1.2%であった。これは前述した2014年の「次世代の党」の全有権者における得票率約1.4%に近似するものだ

極端な思想やイデオロギーは有権者からの支持を受けない

私は拙著『日本を蝕む極論の正体』(新潮社)でも詳述した通り、「極端な思想やイデオロギーは有権者大衆からの支持を受けず、やがて泡沫として消えていく」と結論する。今次のリコール運動での眼目は、「あいちトリエンナーレ2019 続・表現の不自由展」における昭和天皇の写真の焼却が、「日本と日本国民の心を傷つけた」と主張したものである。

確かに、故人とはいえ憲法で「国民統合の象徴」と定められた昭和天皇の写真を焼却することに不快感を感じる人々は居るだろう。だが「不敬罪」が廃止されて70年以上。昭和天皇の写真を焼却する展示物の存在を以て「日本と日本国民の心を傷つけた」と主張するのは、保守界隈やネット右翼界隈でしか通じないジャーゴン(組織内言語)に過ぎず、極端な飛躍である。ましてそれが愛知県知事のリコール請求につながる、というのは一般的な国民の政治的皮膚感覚からは遊離したものと言わなければならない。

今次リコール署名不正事件にあって、現時点でその首魁を断定することは出来ない。が、少なくともこのような極端なイデオロギーに基づいた主張が、2%に満たない有権者にしか浸潤していなかった、ということは事実である。もし、今次のリコールにおける不正が判明しなければ、愛知県で43万5000人、すなわち有権者の7%強という、見過ごせない数の人々が賛同していた、という間違った事実が流布されていたであろう。

ネット右翼2%説が立証された今、私たちは彼らの言説を過大に評価してはならず、また過大に取り上げる風潮が存在するとしたら、厳に警戒しなければならない。

※当記事はYahoo!ニュース個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story