コラム

Qアノンとは違う「日本型陰謀論」が保守派の間で蠢いている

2021年02月19日(金)18時35分

安倍昭恵夫人の思想は危険な純血主義につながる恐れも MUHAMMAD HAMED-REUTERS

<日本でもトランプを支持するバイデン不正糾弾デモが起こったが、米国のキリスト教的な陰謀論が日本の保守派に影響するかと言えば、その可能性は低い。日本には以前から特有の陰謀論があり、それは現在、変化の兆しを見せている>

(2月16日発売の本誌「ポピュリズム2.0」特集より)

昨年11月のアメリカ大統領選挙におけるトランプ敗北とバイデン勝利は、トランプ支持者による陰謀論的ポピュリズムの浸透がいかに深刻であるかを世界に示したと同時に、日本の保守派とそれに追従するネット右翼(以下保守派)に奇妙な「分裂現象」をもたらした。

折しも9月に第2次安倍晋三政権が総辞職し、「安倍路線の継承」をうたった菅内閣が発足する。

だが、菅内閣は靖国神社の例大祭に「真榊(まさかき)」を奉納しただけで、保守派が最も重視する憲法改正や靖国公式参拝、歴史修正的史観の発露などの保守的イデオロギーを大きくは継承しない「無色」の性質を持つと認知されると、途端に「安倍ロス」が起こった。
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このようななかで保守派は第2次安倍政権の上位互換として、反中・反リベラルを鮮明にするドナルド・トランプを思慕し、トランプの必勝を「安倍ロス」という大きな喪失感の代償にして希求することを選ぶ。

大統領選挙の結果は言うまでもないが、これをめぐって保守派は分裂した。トランプの逆転とジョー・バイデンの不正選挙を疑わない一派と、トランプの敗北を渋々追認するという一派である。

まるで第2次大戦直後、日系ブラジル移民社会の中で起こった「勝ち組・負け組」騒動(情報不足の中、日本が勝ったか負けたかの認識をめぐって移民社会が二分され、殺傷事件も起こった)を彷彿とさせるが、2021年になってもこの分裂騒動は収まらず、狭い保守界隈から後者が追放・粛清されるという事態に発展している。

現在、保守派内では「トランプは負けておらず、バイデンの不正勝利の背景には中国の陰謀がある」と信じる一派が主流となっている。他方でバイデン勝利を追認する一派は非主流となり、自らを「認識派」と称しているのだからお笑いに近い。

さてバイデンの勝利により、2021年1月に起こったトランプ支持者によるワシントンの米連邦議会議事堂占拠事件は、多数の死傷者を伴ったこともあって、一種の市民による内乱未遂として世界中に速報された。陰謀論的ポピュリズムが遂に武力を行使するまでに至ったのである。

この事件の中枢にいたのが、熱心なトランプ支持者として名をはせる陰謀論勢力「QAnon(Qアノン)」の信奉者たちだ。このQアノンが、日本の保守派にどのような影響を与えるかは極めて興味深いところである。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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