コラム

瀬戸大也、不倫で五輪出場絶望的? 繰り返される「道徳自警団」の集団リンチで問われる日本の民度

2020年10月12日(月)15時55分

なぜ日本は法体系こそ西欧近代を範としているものの、道徳違反と世俗の犯罪を一緒のものとして見做し、国家権力の代理行使ともいえる私的制裁を加えるのが当たり前の社会になっているのか。それはひとえに、日本社会の民主主義的成熟度が低く、また現行憲法と近代的法体系の少なくない部分が、自らの権利闘争の結果勝ちえたものでは無く、上から与えられたものにすぎないからである。いわゆる「上からの民主化」によって、戦後日本は憲法や法体系こそ西欧と「ほぼ」遜色ない水準となったが、それは自らが獲得した果実ではないので、心底のところでは前近代からの封建的道徳心を引きずっているのである。

国家が道徳違反者に対して懲罰を実行できない代わりに、権限のない個人や社会が実質的な懲罰を代行する行為の主体を私は『道徳自警団』と名付けた。憲法の理念や法体系だけが「上から」民主化されたが、肝心の社会の構成員の多くはそれに見合ったレベルの民主的自意識を持っていない。ようするに精神的アップデートができていない。だから常に、日本社会では道徳によって事実上、社会的生命が途絶されるという異常事態が続いている。この考え方を延長していくと、実質的には単なる道徳違反である不倫が、刑事罰と同じ意味合いを持ってくる。こんな先進国を私は見たことが無い。要するに日本はインフラ的な先進国では辛うじてあるが、その精神の水準に於いては奇妙な封建制を引きずった半権威社会なのである。これが日本の唾棄されるべき生きづらさの根源である。

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プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

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