コラム

安倍政権の7年8カ月の間に日本人は堕落した

2020年08月31日(月)16時30分

安倍の辞任会見を映し出す巨大スクリーンと無関心な人々(8月28日、東京) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<人々は権力批判を忘れ安倍に追従。そして筆者は、右派・保守派から「反日・左翼」に押し出された>

安倍政権の7年8カ月とは、少なくとも保守派にとっては「絶望と挫折」に尽きる。2012年、民主党野田政権下で行われた自民党総裁選で、石破茂を破って総裁になった安倍新総裁は、「尖閣諸島への公務員常駐」と「竹島の日式典政府主催」を掲げ、実際に同年の衆院選挙における自民党政策集の中ではこれを明記した。

2012年当時、私は29歳の右翼であった。私を含めた右派・保守派のほとんど全部は、これまでの民主党政権および歴代の自民党政権でも実現しえなかったこの二つの公約を切望した。しかし竹島の政府主催式典は第二次安倍政権がスタートした直後撤回され、尖閣諸島への公務員常駐は有耶無耶になり、2017年になって安倍総理自身の口から「現在はそういう選択肢を採っていない(衆院予算委員会)」として正式に完全撤回された。

第一次安倍政権の約1年での短命から、本格的なタカ派保守政権の誕生を期待した私たち保守派は、政権誕生劈頭になされたこれらの撤回措置や放置措置に対して不満であった。しかし「まずは自民党政権が誕生しただけでも良しとするべき」という意見が大半で、公約撤回に際しての不満は封印された。

次に保守派は、タカ派的価値観の持ち主であった安倍総理に河野・村山談話の撤回ないし見直しを熱望した。保守派にとって従軍慰安婦問題における日本軍の関与を認めた河野談話は許容できず、先の大戦における日本の侵略的側面を痛切に反省した村山談話もまた、唾棄すべき対象として映ったからである。

安倍に歴史の修正を求めた保守派

しかし保守派のこのような怪気炎を私は醒めた目で見ていた。秦郁彦らによる実証史学により、「日本軍による婦女子をトラックにぶち込んで」という強制連行は疑わしいものの、従軍慰安婦の存在は事実であり、戦後日本は反省する責を負う。また先の大戦で日本が南方作戦と称してアジアの資源地帯を掌握するために軍事行動に出たことは事実であり、侵略的側面を否定するのは無理筋である、と考えていたからである。

事実、安倍内閣では河野談話の検証を行ったが、河野談話を撤回することはせず、また村山談話については検証自体を行わず、2015年の戦後70年談話で河野・村山談話を踏襲し、先の戦争に対する日本の間違った国策を認める談話を発表した。私は「安倍晋三は歴史修正主義者と言われているが、談話を見る限りにおいては戦争に対する反省を行っており、なかなか見直した」と思った。しかし保守派の中枢はこの、河野・村山談話を踏襲した安倍戦後70年談話にかなり不満のようであった。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story