コラム

在日外国人と日本社会の共生努力を後退させる右派の差別扇動

2024年02月27日(火)15時24分

文化が異なる人々がある地域で急速に増加すると、様々なトラブルが発生するのも事実だ。しかしそこには多分にマジョリティ側の偏見や差別感情が伴う。日本人も行っているようなルール違反であってもクルド人の場合だけ殊更に問題にされる。あるいはクルド人が行っていない犯罪行為もクルド人のせいにされてしまう。単純な知識不足や伝達不足の問題を大げさに問題視する、といったケースが確認されている。

一方、日本クルド人文化協会は、「クルド人は怖い・クルド人はトラブルの種である」という偏見を払拭するために、クルド人コミュニティを地域社会と共生させるための取り組み、例えば地域パトロールやゴミ拾い、あるいはゴミ出しのルール違反などルールを知らないために起こってしまうトラブルを解消するための啓発活動に取り組んでいる。また日本人の支援団体も、言語学習のサポートなどを行ってきている。

共生のためにはマイノリティにばかり努力させるだけではなく、マジョリティ側の理解と包摂の努力も必要だ。まして、SNSで様々なトラブルを大きく誇張して差別を扇動し、共生のための努力を外側から破壊しようとする行動は許されてはならないはずだ。

SNSでも差別扇動

2月18日の川口市・蕨市の反移民デモは、先述の通り「日本第一党」に所属していた人物が主催したものだ。

このデモに対して多数のクルド人や差別に反対する日本人が集まり、「カウンター行動」が行われた。差別主義者のデモを市民の力で封じるカウンター行動はヨーロッパでは当たり前であり、先述の2009年の排外主義デモに対しても小規模ながら行われていた。

2月18日のデモは、カウンター行動の参加者の声が排外主義者のデモを圧倒して終わった。だが、クルド人当事者がデモ隊に対して「日本人死ね」と言ったとされる映像がSNSで拡散されたことで、クルド人差別がさらに広がってしまっている。「クルド人は日本人を差別している」というのだ。

しかし問題となっている映像をみると「日本人死ね」という言葉は一度も発されていない。当日のカウンターの参加者も、そのような言葉は誰も聞いていないと述べている。映像に残されているのは、差別主義者は「恥を知れ」「精神病院に行け」という言葉であった。

外国人との共生を目指す努力は各地で続いている。先述の通りクルド人以外にも多数の外国人が暮らす川口市では「多文化共生社会の推進」を掲げ、様々な取り組みを行っている。しかしそのような努力も、SNSでの差別扇動によってたちまち危機に晒されてしまう。そのような差別扇動を許さない、日本全体での反差別の取り組みが求められている。

20250401issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月1日号(3月25日発売)は「まだ世界が知らない 小さなSDGs」特集。トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 6
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 7
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 10
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story