コラム

「高齢者は集団自決」で爆笑するな

2023年01月18日(水)14時14分

このように考えたとき、成田氏の発言も問題なのだが、より深刻なのは、その発言がその場にいる番組の他の出演者に受け入れられてしまっていることだといえる。主に拡散されている『ABEMA Prime』の動画では、成田氏が高齢者の「集団自決」論を唱えたのち、スタジオは(リモートで参加していたひろゆき氏も含めて)爆笑の渦につつまれている。この発言自体が面白いというよりは、出演者はこれが成田氏の持論であることを知っていて、「いつもの発言」が出たことに起因する笑いだったようにも思えるが、冷静に考えて、これはジョークとして捉えられるだろうか?ブラックユーモアが強いバラエティであれば文脈によってはありうるかもしれない。だが、『ABEMA Prime』は仮にも報道番組をうたっているのだ。そのような番組が、果たして風刺や皮肉ですらない高齢者の「集団自決」論を冗談にしてよいのだろうか。

2016年、元フジテレビアナウンサーの長谷川豊氏が遺伝由来ではない人工透析患者は全額自己負担として払えないものは「そのまま殺せ!」とブログに書いて炎上したとき、長谷川氏はある番組に出演して、「人工透析患者を殺せと書いたら炎上したんですよ」と発言した。やはりスタジオは爆笑の渦に包まれていた。

今回、そのときと同じような薄ら寒さを覚えた。日本のメディアは、憎悪扇動の効果について、過小評価しているのではないか?もっとも、長谷川氏はその後全番組を降板することになったが、成田氏についてはその兆候はみられない。

「世代間格差」論の問題

年金保険料の負担や福祉の手厚さの充実度、金融資産の有無に関して、現役世代に比べて高齢者が優遇されているとする世代間格差の議論は、若者向け政策を取り扱う論者によってよく主張され、ネットメディアでは既成事実となりつつある。

しかし、たとえば子育てや教育といった予算を充実させるべきだとしても、高齢者福祉を削る必要はない。よほどの富裕層でもない限り?、高齢者福祉を削って自分の親を自己責任で面倒みるほうが現役世代にとっては負担が大きいだろう。また、なるほど金融資産の多くを保有しているのは高齢者だが、これは退職金の影響もあるし、積み立てられた資産は年齢が上がるほど大きくなるのは当然ということもある。そして、生活保護受給者が多いのもまた高齢者世代なのだ。

芸人で実業家のたかまつなな氏は、成田悠輔氏の「集団自決」発言を批判している。しかしたかまつなな氏自身も、高齢者の発言力が強すぎる「シルバー民主主義」が問題だという持論を持っており、昨年6月、年齢が上がれば上がるほど選挙での一票の価値が下がる「余命投票制度」の仕組みを導入すべきだと提言し、参政権の平等を無視しているとして批判を受けている。「世代間格差」の議論とは、結局のところこうした人権を無視するような極端な帰結にしか至りようがないということではないのか。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story