コラム

安倍元首相の国葬に反対する

2022年07月19日(火)13時50分

経済についてはどうか。アベノミクスの成長率は年1%程度だ。前二者の時代は、悪いときでも経済成長率が4%を下ることはなかった。もちろん時代背景が全く違うとはいえ、安倍政権の成長率は同じく低成長化している同時期の先進国と比べても低い。安倍政権の時代は、リーマンショックや欧州通貨危機をようやく乗り越えた世界が経済成長を続けていた時代であり、2019年にはNYダウはリーマン以前の2倍となっていた。また燃料価格も低く抑えられており、それ以前の福田政権や麻生政権、また東日本大震災が発生した民主党政権時代とは経済環境が異なっていた。そのようないわば経済のボーナスステージ時代だったことも考慮したとき、果たしてアベノミクスは国葬に値する実績を果たしたといえるのか。

異次元金融緩和や円安誘導は恐れられていた副作用が現れつつある。給料が伸びず、金融所得と勤労所得との間のギャップは拡大し続けた。岸田首相はそもそも、そのような安倍政権の経済政策の欠陥を是正するために、自民党総裁選に立候補していたのではなかったか。それでも、雇用や株式の数字をあげて、アベノミクスの成果を挙げる人もいるだろう。繰り返すが論点は、安倍政権の経済政策が評価できるか否かではなく、歴代政権のそれと比べて国葬を行うほど傑出して評価できるか、である。たとえば所得倍増計画を演出した池田元首相でさえ、国民葬すら行われていないのだ。

安倍政権がもたらした立憲政治への危機

清廉潔白な内閣、落ち度がない内閣を探すのは難しい、造船疑獄で退陣した吉田政権や黒い霧解散を行った佐藤政権も汚職や疑惑、スキャンダルにまみれていたといえる。佐藤時代の核密約は、日本国の主権への挑戦ともいえる。しかし、故人が国葬を取り行なうべき人物がどうかを判断するには、このような観点での精査も必要だ。安倍政権については、首相に関わる汚職疑惑だけでも森友加計桜を見る会と枚挙にいとまがない。国会での追求に対して首相は100回以上の嘘をついていたことも明らかになっている。さらに問題なのは、その過程で、多くの公文書の隠蔽、破棄、そして改竄さえ行われたことだ。行政の公開性は民主主義の基礎の一つであり、公文書の改竄が平然と行われるようになれば民主政治は危機に陥る。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

IT大手決算や雇用統計などに注目=今週の米株式市場

ワールド

バンクーバーで祭りの群衆に車突っ込む、複数の死傷者

ワールド

イラン、米国との核協議継続へ 外相「極めて慎重」

ワールド

プーチン氏、ウクライナと前提条件なしで交渉の用意 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドローン攻撃」、逃げ惑う従業員たち...映像公開
  • 4
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 5
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story