コラム

ドラマ『相棒』の脚本家を怒らせた日本のある傾向

2022年01月05日(水)17時08分

反五輪デモの主催団体はいくつかあるが、筆者の知り合いが関わっているものもあり、また筆者自身もデモに参加したことがある。また反五輪ではないが、デモそのものの企画に関わっていたこともある。その経験から言えば、市民運動で日当を払ってデモに参加させるなどということは考えにくい。そもそもデモは主催者の持ち出しだし、むしろ参加者からカンパを募って運営しているのが実情だ。自民党は総選挙のとき、公職選挙法違反日当を払った動員をしていたらしいが、そんな資金は市民団体にはない。もしそのような団体があったとするなら、他の団体を巻き込まないためにも、具体的に名前を示す必要があるだろう。

こうした日当デマは市民運動に対する攻撃として根強く存在している。しかし昨年末は公共放送たるNHKが、具体的な団体名も状況も示さずこのデマを流したということは、大きな問題だといえるだろう。

自ら政治参画の可能性を狭めようとする日本人

年末年始のメディアで起きたこの二つの事例は、日本の市民運動に対する攻撃がいかに激しいかを物語っている。しかしそのことで、日本人の政治意識は低いレベルに止まることになり、『相棒スペシャル』にいたっては、その稚拙な表現により物語の一貫性を欠いてしまうという、ドラマそのものの評価を下げることにもなった。こうした攻撃は、権力者や富裕層以外の市民にとっては得がないのだ。

直接行動は、選挙のような制度とは別の、名もなき無力な市民が政治に参画するための貴重な表現形態のひとつだ。しかし日本では、メディアが直接行動を揶揄し意味がないとみなすことによって、市民は直接行動の参加意欲が削がれ、その政治的な力も失われている。もったいないとしか言いようがない。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは149円付近に下落、米関税警戒続く

ビジネス

味の素AGF、7月1日から家庭用コーヒー値上げ 最

ワールド

ロシア、2夜連続でハリコフ攻撃 1週間で無人機10

ワールド

シリア新暫定政府に少数派が入閣、社会労働相には女性
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story