コラム

反共イデオロギーが日本政治をダメにする──八代弁護士『ひるおび!』発言が悪質な理由

2021年09月14日(火)15時43分
志位和夫

野党共闘へ向けて抱負を語る志位委員長 https://youtu.be/oCu7HwvauAU/日本共産党

<「暴力的な革命」の党というデマは、日本共産党が立憲民主党などと野党共闘を組んだタイミングを受けたもので意図的だ>

9月10日、TBSの番組『ひるおび!』で、八代英輝弁護士が、日本共産党は「まだ暴力的な革命というのを党の要綱として廃止していない」というデマを流したことが問題になっている。現在の共産党の綱領には、暴力革命を示唆する文言はない。これを受けて共産党の志位和夫委員長は『ひるおび!』に抗議し、謝罪と訂正を求めた。

TBSは誤りを認め、13日の同番組で八代弁護士は「謝罪」した。しかし、その「謝罪」もまた問題があるものだった。

公安調査庁さえ言っていない

八代弁護士は13日の謝罪で、共産党はまだ暴力革命を綱領に定めているという自身のデマについて誤りを認めるのではなく、自身の発言は閣議決定に基づくとして、それに反論している共産党の見解を併記しなかったことを謝罪している。しかし、この点については意見が分かれる問題ではなく、共産党の綱領を読めば暴力革命という言葉どころかそれを示唆する記述すら書いていないことは一目瞭然であり、八代弁護士がデマを流したことは明らかなのだ。

また八代弁護士が依拠した閣議決定なるものは、恐らく2016年、安倍政権時代に出されたものだろうと考えられている。しかし、この閣議決定は、公安調査庁が共産党を調査対象とし、暴力革命の危険性があると認識している事実については述べているのだが、共産党綱領に暴力革命の記述があるとは一言も述べられていないのだ。すなわち八代弁護士はこの謝罪に際して、「日本共産党が今なお暴力革命を志向する綱領がある」というデマを新たに流したことになる。

さらに、この閣議決定を無批判に引用することも、コメンテーターとして報道に関与する者の立場では極めて問題がある。閣議決定はそれ自体政治の産物であり、決して中立ではない。実際、安倍・菅政権下では、多くのおかしな閣議決定がなされている。2019年には当時の安倍昭恵首相夫人を「私人」だとする閣議決定が出された。また同年、「桜を見る会」問題に関連して「反社会的勢力」の定義は「困難」だとする閣議決定が出されたが、八代弁護士はこの閣議決定に基づいて、ヤクザと取引した企業を弁護できると考えているのだろうか。

閣議決定それ自体の問題

そもそも2016年の閣議決定自体の中身自体に問題があるのだ。日本の公安調査庁は、共産党を破防法上の「調査」対象にし続けている。しかし、これをもって日本共産党が危険政党だと考えるのは、あまりにも権威主義的な考えだ。およそ国家の治安組織なるものは正義の組織ではない。治安組織には治安組織の自律的な思考があり、市民が全面的に信頼を寄せることができるものではない。それは警察による冤罪事件や不祥事揉み消しが日常的に発生していることからも分かる。そして公安調査庁は、組織の存続のために自ら敵をつくり仕事をつくることを宿命付けられている。共産党の監視は、いわば「飯のタネ」なのだ。その結果が、60年以上「調査」しているのに暴力革命の証拠を何一つ見つけられていない、と共産党公式Twitterに皮肉られるような結果なのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story