コラム

都議会選で自民党を大敗から救ってやったキミへ

2021年07月09日(金)17時54分

しかし、無効票の価値はどこまで行っても無効でしかない。政治家は当選するかしないかでしか危機感を感じない。白票がいくら多くても、自分自身の当選に関係しない票に配慮している余裕はないのだ。白票を推奨するのは、前述した、自分たちの政治的無関心さの原因を政治家に押し付け、かつ政治について何か言った気になりたい自己満足の亜種でしかない。

有権者の政治的無責任がなんとなく許されている状況下で、投票率を上げようとする運動は、有権者をバカにしたものになりがちだ。その極端な例が、SNSを中心に話題となった、都議選と同日に行われた国分寺市市長選挙の公開討論会を宣伝するポスターだ。国分寺市の青年会議所(JC)が作成したこのポスターは、女性モデルを性的なアイキャッチとして用いることで、ただ人目を引かせようとするものだったことに批判が集まった。確かにこのポスターには日時や立候補者などの情報が全く書かれていないのだ。

公的広報について女性を性的なアイキャッチに用いるような表現は、「男女共同参画」の観点からは問題があるという見方が一般化しつつある。たとえば国分寺市も、市が刊行する表現物について「男女平等の視点による表現のガイドライン」を出し、そのような表現を用いないようにしている。このような視点からみてJCの前時代的な発想が批判されるのは当然だが、同時にこの広告が、真面目な広告では有権者の関心を引かないという、政治意識をバカにした発想からつくられていることにも注目すべきだろう。

そうはいっても、日本の有権者に政治意識が乏しいことを批判するだけでは、政治意識の向上につながらないという意見もあるだろう。だが、有権者をあたかも消費者のように、お客様として処遇することで少しでも政治意識を改善していこうとする宣伝戦略にも未来があるとは思えない。

有権者の問題は有権者自らが変わることでしか解決できない。そうしなければ、情報を隠し、公文書を偽造し、嘘をつき続けるような不誠実な政治家の操り人形として、いつまでもナメられ続けるしかないだろう。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story