コラム

選択的夫婦別姓を認められない日本の何が問題か

2021年07月02日(金)11時50分

少なくとも1990年代には改善されているべき制度が、権威主義者の粘りのせいで宙吊りにされたままにされ続けていることは、家族に関する次の議論に行けないという意味で、日本を停滞させる一因となっている。

しかし家族政策を少子化対策などの社会政策と関連させるとき、従来の家族モデルにはもはや戻れない中で、現状では主に婚姻制度しかない家族のパートナーシップ制度の在り方を再構築する必要も出てくるだろう。

たとえば同性婚の導入もその一つだ。また、シングルマザーがひとつの家に住んで子育てや家事をシェアする試みなども既に存在している。一組の男女とその子どもを基本単位とした家族モデルを家族の唯一の形態とすることは、育児や介護の面で限界に近づいている。だからといって自民党のように、過去の大家族モデルを復活させようとするのは時代錯誤だ。

そうであるならば、従来の家族モデルに囚われず、様々なパートナー関係を「家族」として認めたほうが、より人々の暮らしを効率化できるし、子育ての選択肢も増え、出生希望者と出生数とのギャップを多少なりとも埋められるかもしれない。

このような思考を伸ばしていったとき、選択的夫婦別姓すら家族の一形態として認められない保守的な集団主義者の我儘にいつまでも付き合っている暇はないのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

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