コラム

選択的夫婦別姓を認められない日本の何が問題か

2021年07月02日(金)11時50分

選択的夫婦別姓制度はすでにほぼ世界中で採用される制度となっており、さしたる問題もなく運用され続けている。日本でも、事実婚の場合や日本国籍者と外国籍者が婚姻したケースなど、既に別姓であるような家庭も存在している。そうした別姓家庭が「家族の一体感」を損なっていたり、「子どもへの(悪)影響」があったりする証拠はない。そもそも別姓にすることで子どもがいじめられるような不利益があったとするならば、そのようないじめこそ許さぬ風潮を社会がつくりあげなければいけないだろう。

もちろん、夫婦で同姓にするという明治以来の「伝統的」婚姻こそが正しいと信じる人がいることは考慮されなければならない。しかし、現在議論されている選択的夫婦別姓制度は、「選択的」という言葉の通り、別姓強制制度ではない。同姓にしたいカップルはそれを選択すればよいだけであり、同姓の支持者と別姓の支持者で特に対立はないはずなのだ。

家族の在り方は既に自由である

「選択的」であっても夫婦別姓に反対する人にはいくつかのタイプがある。近年増えているとみられるのが、選択的別姓制度の効用は理解していながら、それが主に女性の利益となっていることが気に食わず、感情的に反発しているミソジニスト(女性蔑視者)だ。制度導入によって、パートナーから別姓を切り出されてはたまらん、という男性は多いだろう。

一方、昔からの反対論者で多いタイプは、国家や民族に対して集団主義的な価値観を持つ人々だろう。かれらは、日本の伝統的婚姻制度は夫婦同姓であり、そうであるならば日本人すべての夫婦が同姓であるべきである、という信念を持っている。選択制度によって、ひとつでも別姓カプルが誕生してしまった場合、かれらは猛烈な不安に襲われてしまう。いわゆる権威主義的パーソナリティに属する人々であって、自由主義者の「我々が別姓を選ぶことはあなたの(同姓がよいという)信念を傷つけない」という説得が通じないのだ。

しかし日本国憲法はそもそも、あるべき家族の型を明示してはいない。旧い家制度が解体されたことによって、日本人全員が守らなくてはならぬ家族の価値観は存在していない。従って伝統的家族形態なるものを守っている人も、個人の好みでそれを守っているにすぎないのだ。

つまり、選択的夫婦別姓制度の導入は伝統を破壊し自由にするものではない。家族についての考え方はとっくに個人の自由に委ねられている中で、その自由を制約する障壁をひとつ取り除くだけのことなのだ。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

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