コラム

「多拠点生活」の実現が、これからの日本経済を活性化させる

2021年02月15日(月)16時00分

今後VRなどの技術が広がり、仮想空間の利便性が劇的に増えたとしても、人は移動を捨てないだろう。そしてそれは、長期的な日本経済全体にとっても重要なテーマだ。

江戸時代の参勤交代で、全国の大名が一定の間隔で移動することは、当時の日本経済全体にとても大きい効果をもたらすものだった。日本中で宿場町が栄え、物品の往来が活発になったことで、様々な商品が全国に流通した。移動は経済活動においてとても重要なイベントと言えるだろう。

地方創生の考え方も大きく変わる。これまでは人口減少や過疎化に悩む地方にとっては移住政策がとても大事であった。しかし、よほど魅力的な価値がない地域では移住のハードルは現実にはとても高い。

しかし、これからは一時的でよいので滞在してくれる人を増やすという方法が生まれるのだ。すでに移住よりも関係を持つ人を増やすという、「関係人口」政策は重要になりつつある。

1ヶ月でも訪れて、働いてくれるような関係人口を増やすことは、移住者を増やすことよりもはるかに簡単で、ECで物産品を購入してもらうよりも経済効果が高い。今後10年、20年のスパンで考えると、住民税を自分が関連して住んでいる場所に分割して納めるような政策を実現させることで、新しい地方創生の姿が見えてくるだろう。

規制緩和も課題だが、日本経済活性化に大きな意味を持つ

課題もある。現在多拠点生活を始めている人達は、子供が独立した後の夫婦や若い独身の人などが多い。子供のいる家族とって、多拠点生活は子供の教育環境などが課題だ。しかしそれもオンライン学習が当たり前になると全国移動しながらの教育も可能になるかもしれない。かつては転勤族の親に連れられて転々とする子供は可哀想的な印象があったが、今後はむしろ積極的に日本中を体験させる親なども増えるかも知れない。

他にも様々な規制緩和も課題だ。選挙の際にはオンライン投票が実現されなければ、住民票がある場所の投票所に行くのが大変だ。また短期滞在の場合は、滞在する家が旅館業法の適用を受けることになり、ADDressも物件数を自由に増やせないということになっていて、今後の規制緩和も重要になる。

多拠点生活市場の拡大は様々な企業にチャンスを与える。例えば、複数拠点に家があれば、大型の車を買う人も増えるだろう。住む場所が増えれば家具や家電の需要も増える。一方で所有することを手間だと考え、レンタルサービスやシェアリングサービスなどの利用者も増えるだろう。まさに日本経済全体にとって新しいビジネスチャンスだらけの魅力的なムーブメントなのだ。私たちは2030年には37.5兆円の巨大市場になると推計している。

日本経済活性化のために、多拠点生活はとても大きな意味を持つライフスタイルの変化だ。誰にとっても望ましく、様々な価値創造が行われる世界として、多くの業界の企業がバックキャスティングに考え、できることからすぐにでもアクションすべき市場であることは間違いない。

プロフィール

藤元健太郎

野村総合研究所を経てコンサルティング会社D4DR代表。広くITによるイノベーション,新規事業開発,マーケティング戦略,未来社会の調査研究などの分野でコンサルティングを展開。J-Startupに選ばれたPLANTIOを始め様々なスタートアップベンチャーの経営にも参画。関東学院大学非常勤講師。日経MJでコラム「奔流eビジネス」を連載中。近著は「ニューノーマル時代のビジネス革命」(日経BP)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story