なぜ今、トヨタが「街」を創るのか、あらためて考える
デンマーク出身の建築家ビャルケ・インゲルスが、「Woven City(ウーブン・シティ)」について語る...... REUTERS/Steve Marcus
<トヨタが発表していたスマートシティプロジェクトの建設がスタート。都市における移動でどのような価値を提供できるのか、自らが実践し、市場を切り開くための壮大な超長期戦略だ...... >
トヨタが発表していたスマートシティプロジェクト「Woven City(ウーブン・シティ)」の建設が始まった。静岡県裾野市の工場跡地の70万平米を新しい未来の街にするという壮大なプロジェクトだ。まさに本コラムのテーマである「超長期戦略」の視点にたった代表的な取り組みであると言えるだろう。自動車会社にとって、何故今「街」なのかというところを考えてみたい。
自動車業界に押し寄せる「CASE」という波
自動車は工業化社会そのものとも言えるプロダクトだ。しかし、自動車の世界にも第四次産業革命の大きな波は容赦なく押し寄せている。業界ではCASEというキーワードで呼ばれている。コネクテッド(Connected)、自動運転(Autonomy)、シェアリング(Shared)、電動化(Electric)という波は「ガソリンエンジンで動く丈夫で安全な自動車を販売する」という、自動車会社を100年支えた強固なビジネスモデルを破壊しつつある。
コネクテッドとシェアリングは利用状況に応じて利用分だけ課金することなどを可能にし、自動車を「所有から利用する」ものへと変えている。
そして、自動車が蓄電池とモーターの電気自動車になるという車体設計上とてつもない大きな変化の上に、自動運転がもたらす衝撃ははかりしれない。自動運転にはレベルが定義されており、レベル4まではこれまでの自動車の延長だが、レベル5になると運転席が必要なくなり、自動車の形や構造そのものが劇的に変わる。
さらに注目されているのが低速自動運転車だ。時速20km以下で動く車体は低速であるため人と衝突しても歩行者や車内の人に怪我をさせるリスクがとても少なくなる。もはや車体も家電の延長のような作りになることで家電メーカーのような会社でも低コストで製造できるようになり、たくさんのメーカーやベンチャーが容易に参入できるようになる。自動車会社の持つ優位性はどんどん失われるのだ。
街レベルでのモビリティ概念の変化
トヨタを始めとする世界中の自動車会社もCASEへの対応は進めてきている。トヨタは世界に先駆けハイブリッド車を開発し、電気自動車も投入した。レンタルやリースなどの金融モデルもかなり昔から着手しており、サブスクで自動車を使えるサービスも自ら手がけている。しかし、これからおこる変化は、もはやこうした連続的な変化を数段越える破壊的イノベーションの世界だ。それが街というレベルでのモビリティの概念の変化だ。
20世紀のモビリティはまさに自動車そのものの時代だった。しかし未来の移動では、自動車の役割はとても部分的なものに変化する可能性が高い。そうであれば今後数年ではなく、10年以上先におこる変化から今を考えた時、まさに「街を創る」という選択をしたことは自然なことなのかも知れない。
注目されるパーソナルモビリティ
すでに欧米の都市、パリやロンドン、マドリードでは脱炭素社会を目指す流れの中で、街の中への自動車の乗り入れを制限し、移動手段として自転車などを見直す動きが始まっている。駐車スペースを廃止し、代わりに自転車専用道路を増やす動きもある。
そして、自転車だけでなく一人で使うパーソナルモビリティも注目されている。福岡市では、今はバイクと同じ原付扱いの電動キックボードでも自転車通行帯を走れるようにする特区実験がスタートした。
WALKCARという日本のベンチャーの開発した電動モビリティは、なんと鞄に入れて持ち歩けるほどの小型化を実現している。電動になると様々な形のものが簡単に作れるので、今後も多種多様なパーソナルモビリティが開発されるだろう。歩行者フレンドリーなパーソナルモビリティは、人々の移動スタイルをがらりと変えていくことになる。
WALKCAR | Cocoa Motors.inc. JAPANこの筆者のコラム
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