コラム

若田光一宇宙飛行士に聞く宇宙視点のSDGs「宇宙ゴミ処理は日本がリードできる分野」

2023年06月07日(水)11時30分

──先日の「軌道上での活動成果の報告会」(5月24日)で、宇宙飛行士の方が使う歯磨き粉を、地上の一般企業が「水をいかに使わなくて済ませるか」と研究して実用化したと伺いました。私たちの宇宙進出のために、危険にさらされながら開発の最前線に立たれている宇宙飛行士に対して、一般人も貢献できると知りました。

そうなんです。宇宙では水がすごく貴重です。日本人って、平均すると1日に300リットルくらい水を使うそうです。風呂に入りますからね。

だけど宇宙ですと、我々が使えるのって1人3リットルぐらいです。水は飲まなきゃ死んでしまうので、体重によって飲まなきゃいけない水の量っていうのがあります。大体2.5リットルぐらいで、私は2.4リットルぐらいなんじゃないかな。

3リットルのうち飲み水の残りが500cc(0.5リットル)ぐらいで、それで歯を磨いたり顔を洗ったり、全てしなきゃいけないんです。500ccで生活するって、結構、大変ですよね。

──歯磨きだけでも、半分くらい使ってしまいそうです。

でも、節約生活のための技術がたくさんあるんです。例えば、シャンプーはもともと頭を洗った後にぬぐうだけだったんですけれど、ちょっとシャンプーが残っちゃったりして、あまり快適じゃないこともありました。けれど、日本のメーカーが作ってくださった洗髪シートは、すごく心地よい、すきっとするような使用感でした。

宇宙船ではアルコールを使えないので、メーカーがアルコールでなくてもすきっとするような材料を開発してくれたんです。これで頭を拭いたり顔をぬぐったりすると、ほとんど水がなくても快適な生活ができました。

これまで宇宙とは直接関係のなかったメーカーの技術で、宇宙生活が快適になりました。今後は、もっともっと多くの企業が、宇宙の水が使えない環境で役に立つものを作ってくださるんじゃないかなと思って、期待してます

でもそういうのって、地球上でも災害時だとか水が豊富に使えないような地域とかでも役に立つ技術なのかな、というふうに思います。

若田宇宙飛行士ISS動画『宇宙でのナイトルーティン』 (C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)


──そう考えると、宇宙に直接行かないとしても、私たちにとって意外と宇宙って身近なのかもしれませんね。宇宙生活を快適にするために開発された技術が、巡り巡って地球に帰ってきてSDGsに貢献するというところも、とても面白く感じます。

そういう視点は非常に重要だと思います。

私とかがきちっとお伝えしていかなきゃいけないし、なかなかそこが十分できてないと思いますけれど、宇宙を本当に身近に感じていただけるように、今みたいな生活用品の観点からお話することは大切です。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story