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風刺小説の形でパンデミックの時代を記録する初めての新型コロナ小説
パンデミック禍の2年弱は、孤独が極まった長い年月だったと言えるだろう Xesai/iStock.
<今だから描ける、パンデミック初期の「得体が知れないものへの不安」と「根拠のない楽観」>
最初はアジアのみで流行している謎の感染症と思われていた新型コロナウイルス感染症が世界中に広まったのが2020年の2月だった。3月にはアメリカの多くの地域で感染者が増加し、ロックダウン(あるいは自宅待機)の勧告が出るようになった。
2021年にはワクチン接種ができるようになり、制限はあるものの友人との外食やコンサート参加が可能になってきている。その2021年11月現在に2020年3月頃を振り返ると、まるで遠い過去のような気がする。海外旅行や外食、コンサートや映画鑑賞で多くの人と接触していた日常を失った2年弱は、孤独が極まった長い年月といえるだろう。
まだパンデミックが収まっていないときにパンデミック小説、しかもリアルな新型コロナのパンデミック小説を読みたい読者はあまりいないかもしれない。どちらかというと、現状を忘れさせてくれる本を読みたくなるものだ。けれども、今だからこそ理解できる感覚というのもある。どちらにせよ、いずれはこの時代の人間の心理や言動を分析した本が出てくることだろう。ゲイリー・シュテインガートの『Our Country Friends』は、新型コロナのパンデミックを題材にした(少なくともメジャーな作品としては)初めての文芸小説だ。
隔離のコミュニティー
新型コロナ流行の初期に、ロシア生まれのユダヤ系アメリカ人作家サシャはニューヨーク市の北にあるハドソンバレーの別荘地に友人たちを招く。文筆家の友人を集めて一緒に隔離するというアイディアで、招待されたのはサシャの高校時代の友人でコリア系女性のカレンとインド系のビノド、サシャが大学で文芸を教えていたときの教え子のディー、グローバルな生活を営むコリア系男性のエド、そしてハンサムで有名な「俳優」だった。
母屋に住むのはどちらも子どもの頃にロシアからアメリカに移住したサシャと妻のマシャ、そして夫婦が中国から養子としてひきとった8歳の娘ナットである。マシャは精神科医だが文筆家としてのサシャの収入は途絶えていて修理費の支払いにも困るようになっている。サシャは「俳優」が作品のテレビドラマ化を手がけていることに望みをかけていたが企画は難航していた。ゲストたちは、それぞれ小さなバンガローに泊まり、メインの家に集まって一緒に夕食をとるという決まりだ。
仲間の中で最も経済的に成功しているのは恋愛アプリを開発したカレン。裕福でグローバルな子ども時代を送ったエドは洗練された文化背景を持っている。貧しい子ども時代を送ったことを書いて有名になったディーはグループの中では最も若くて外見も魅力的な女性だ。エドはディーに惹かれているが、そこにナルシシストの「俳優」が現れてディーと恋に落ちてしまう。大学教授への道を失い、がんで肺の一部を失ったビノドは負い目を感じているが、実はサシャが今まで彼に隠してきた秘密がある。マシャは世界で一番愛する娘のナットに母国の言語であるロシア語を教えたいが、ナットはK-popに夢中でカレンから韓国語を学びたがる。
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