最新記事

中国

中国、不戦勝か――米「パリ協定」離脱で

2017年6月5日(月)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

パリ協定からの離脱を表明するトランプ米大統領 Joshua RobertsREUTERS

6月1日、トランプ大統領はパリ協定からの離脱を表明した。中国はグローバル経済だけでなく気候変動に関しても世界を主導していくと言わんばかりだ。李克強首相がメルケル首相と会談しEUとも首脳会談を行なった。

トランプ大統領のパリ協定離脱宣言を喜ぶ中国

6月1日、トランプ大統領は地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」から離脱することを表明した。

中国外交部は記者会見で、このことに関する記者の質問に対して以下のように「勝ち誇ったように」回答している。中国語では「覇気を以て回答」という言葉を用いているが、この「覇気」は「威張った様」を示すものだ。

――中国はアメリカが「パリ協定」から離脱すると宣言したことに注目している。「パリ協定」は気候変動に対する国際社会の広範なコンセンサスを凝集したものであり、各国各国民はようやく得られたこの貴重な成果を維持すべく努力していかなければならない。中国政府は気候変動問題を非常に強く重要視しており、イノベーションや協調、グリーン化(クリーンエネルギー化)などを徹底して貫徹し、気候変動問題に積極的に対応する。これは中国が発展途上の大国として担っている国際的な責任であり、同時に中国の持続的な発展に対する内在的要求でもある。

中央テレビ局CCTVでも特集番組を組み、一昨年アメリカとともにようやくパリ協定の合意にこぎつけ昨年から発効させた「大国」として、「アメリカが抜けるなら、中国がリーダーシップを発揮しましょう」とばかりに、声を張り上げて中国の存在を大きくアピールした。

それはまるで、グローバル経済でもアメリカが抜けてくれたお蔭で中国が世界の覇者たりえたし、地球温暖化問題という人類の課題に対しても、中国が先頭に立つと宣言しているようで、「喜びと自信に溢れている」ことが画面からも伝わってきた。

アメリカに追いつけ追い越せと、一帯一路構想やAIIB(アジアインフラ投資銀行)などに力を入れてきた中国だが、アメリカのTPP離脱に続くこのパリ協定離脱は、思いもかけない天からの贈り物。

不戦勝に輝く勝者のような面持ちである。

李克強首相、メルケル首相らと会談

タイミングもまた中国に利した。

アメリカでトランプ大統領がパリ協定離脱宣言をしているちょうどその時に、李克強首相はドイツのベルリンでメルケル首相と会っていた。2004年から始まっている中独二国間首相年次会談制度(シャトル外交)に基づいた会談で、中国は政府間協議を含む70余りの二国間協議協力制度を実施している。会談後の記者会見で李克強首相はパリ協定に関して「国際的合意であり、中国は国際的な責任を負う」と述べ、自由貿易に関しても「中国にとってドイツはEUの中でも最重要のパートナー」と持ち上げた。事実、中国側の統計によれば、2016年の中独二国間貿易額は1512億9000万ドルに達し、ドイツはEUにおける中国最大の貿易パートナーとなり、また昨年、中国は初めてドイツ最大の貿易パートナーとなっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国自動車輸出、4月は過去最高 国内販売は減少に減

ワールド

UNRWA本部、イスラエル住民の放火で閉鎖 事務局

ワールド

Xは豪州の法律無視できず、刃物事件動画訴訟で規制当

ビジネス

ドイツ住宅建設業者、半数が受注不足 値下げの動きも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 4

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 7

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 8

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中