キューバ系アメリカ人を乗せない客船が象徴するカストロ抑圧体制
アメリカとの国交回復後もキューバの人権抑圧は続いている
渡航自由化 キューバへ向けマイアミを出港したカーニバル社のクルーズ船(昨年9月18日) Joe Skipper-REUTERS
我が家はキューバ系だが、クルーズ船でキューバに行くことなど考えたこともない。
キューバの打楽器コンガのリズムに熱狂する中年アメリカ人に押しつぶされそうになるぐらいなら死んだほうがまし、というのが妻の持論だし、私自身も、自由な国になるまで2度と戻らないと誓って出てきて以来、44年間キューバへ足を踏み入れていない。
だが事情は変わった。マイアミに本社を置くクルーズ会社カーニバルクルーズが最近、キューバで生まれたキューバ系アメリカ人の乗船を拒否するという差別的な方針を発表したのだ。船腹に"Sue Me(訴えてください)"と大書したようなものだ。どこまで本気か、乗船を試みたいものだ。
カーニバル社の新方針は、キューバのラウル・カストロ政権に対するバラク・オバマ米大統領の宥和策が間違いだったことの象徴だ。今回、世間にもそれをさらけ出すことになった。
【参考記事】渡航自由化、キューバの本音
あらゆる独裁政権と同様、カストロ政権はまるでバクテリアだ。接触すれば、感染する。
カーニバルもカストロ病に感染したのだろう。キューバとビジネスをしようとすれば誰でも同じことになる。なぜなら、ラウル・カストロ国家評議会議長の義理の息子でキューバ経済を牛耳るルイス・アルベルト・ロドリゲス・ロペス・カジェハ将軍を必ず通さなければならないからだ。
【参考記事】孤独な共産主義国、キューバ
ジョン・ケリー米国務長官もカーニバルの馬鹿げた方針に釘を刺してこう言った。「カーニバルは、アメリカ人差別につながるキューバの政策を容認すべきではない」と語ったのだ。
ビジネス専門通信社のブルームバーグは「キューバでビジネスをしたいなら、将軍をビジネスパートナーに迎える覚悟を決めよ」というタイトルの記事で、キューバが抱える問題を列挙している。
それでもやるなら、自分が将軍に渡した金は、より多くの銃弾や拷問器具を買うために使われることを知ってほしい。それでもやるなら、後で不眠になっても十分に強い薬はないかもしれないことを考えてほしい。
事の本質を確認しておこう。カストロ政権はキューバ系アメリカ人をアメリカ人と認めていない。昨年キューバで再開したアメリカ大使館のホームページを引用する。
キューバ政府は、キューバ生まれのアメリカ人もしくはキューバ人の親を持つアメリカ人が、アメリカ国籍を有することを認めていない。この条件に該当する個人はキューバ国民とみなされ、兵役を含めたキューバ国民の義務や制約の対象となる可能性がある。