最新記事

経済改革

孤独な共産主義国、キューバ

自営業は認められたが、厳しい統制と官僚主義は相変わらず。本気で改革開放に取り組むつもりはラウル・カストロにはない

2012年10月17日(水)13時47分
ニック・ミロフ

小さな自由 経済改革以前にはありえなかった、首都ハバナの露天商 Enrique de la Osa-Reuters

 まず確認しておこう。キューバ共産党はこう宣言している。キューバの社会主義制度が「変わることはない」。

 だがラウル・カストロ国家評議会議長が進める経済改革によって市場原理が導入され、多くの人々が戸惑いを見せている。正直、キューバがどんな経済モデルをつくろうとしているのか、分からなくなっている。

 キューバ政府は私企業は認めても、自由民主主義を認めるつもりはないようだ。この姿勢は中国やベトナムを思い出させる。どちらもグローバル化した経済の急速な成長のおかげで、一党独裁の政治体制を維持している。

 7月、81歳のカストロは珍しく外遊に出た。訪問先は中国とベトナムだ。当然、アジアの商売上手な共産主義国を見習うつもりかという臆測が広まった。

 だがキューバがこの両国の路線を模倣することはあり得ないと、ハバナ大学の経済学者フリオ・ディアス・バスケスは断言する。キューバには「経済の根本的な構造改革が必要だという認識はある。しかし旧体制の考え方は根強い。起業家を規制することばかり考えている」。

 08年にカストロが議長に就任して以降、民間企業により大きな役割を与える政策が導入されてきた。自営業許可証を取得した人は40万人近い。政府は農作物の増産を狙って、約1万2000平方キロの国有地を長期にわたって無償で自営農や独立系協同組合に貸し出している。


金儲けは今でも「犯罪」

 都市部はレストランや軽食店が軒を並べ、にぎやかになった。住宅やアパートの売買も約半世紀ぶりに許可された。

 キューバ人はビジネスチャンスについても、政府との関係についても、今までと違った見方をするようになってきた。しかし共産党指導者や官僚組織は、中国やベトナムが何十年も前に捨て去ったソ連式の教条主義にしがみついている。

 ディアス・バスケスによれば、中国やベトナムは高い生産性を重視し、企業家や専門家が成長を奨励している点がキューバとは大きく違う。外国投資も導入され、輸出業の発展で世界経済の重要な一員になっている。国民の生活水準は向上し、それが政治の安定にもつながっている。

 政府は貧富の差を和らげるための介入はするが、個人が裕福になることを妨げてはいない。中国の最高指導者だった鄧小平は「金持ちになることは素晴らしい」と語ったと伝えられるが、キューバではいまだに金儲けは犯罪だと思われている。

 ラウル・カストロの改革後も政府は自営業者を厳しく規制していると、ディアス・バスケスは言う。「商売を始めてもいいが、いつでもやめさせられるという姿勢だ」 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米最高裁、旅券記載の性別選択禁止を当面容認 トラン

ビジネス

FRB、雇用支援の利下げは正しい判断=セントルイス

ビジネス

マイクロソフトが「超知能」チーム立ち上げ、3年内に

ビジネス

独財務相、鉄鋼産業保護のため「欧州製品の優先採用」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中