コラム

経済と命の比較がすべてを狂わせる

2020年05月04日(月)14時30分

ゴールデンウィーク中にも関わらず人けがない東京駅前(4月27日) Issei Kato-REUTERS

<新型コロナウイルス対策で、日本だけが世界で迷走を続けているのは、経済より命が優先と思考停止に陥って中途半端な自粛要請と腰の引けた経済対策ばかり繰り返しているからだ>

日本のコロナ対応の政策が間違ってしまう理由は、経済と命を比較していることに尽きる。

そして、その比較の結論が逆になっていることが致命的に日本を滅ぼす。

今回の緊急事態宣言の延長が本来であれば不必要であったにもかかわらず、実行された理由がここにある。

延長決定のいきさつについての報道を読むと、1年延長の強硬論もあって、これに比べれば5月末というのは、比較的最小限に見えてしまったという失敗もあるようだが(そういう意味で、専門家会議のメンバーの、恐怖を煽って自己主張を通すという戦略は成功したのであるが)、どうも最大の理由は、専門家メンバーでも穏当なグループも、延長しなかった場合に人々に「緩み」が出てしまうことを一番恐れて、延長が望ましいと主張し、これが大勢を占めて、決定されたようだ。

愚かだ。

つまり、緩まなければ必要がなかったわけで、それなら延長せずに、緩むな!と伝えればいいだけのことだ。それなのに、人々はどうせ緩む、という不信感による不安で延長という手段に出た。

自粛を「おねがい」する矛盾

世界で日本だけがコロナ対策で迷走しているのは、「自粛要請」という論理的に破綻した手段に拠っていることに尽きる。

緊急事態宣言というのは、戦時動員体制、戒厳令に近いものであるから、強制力がなければ意味がない。導入のときの野党の反対、世論の圧力により、中途半端な緊急事態法制になってしまったのが直接の敗因だ。

失業や倒産への対策、救援策は必要だが、それは補償ではない。あり得ない。

普通の法制なら命令だから、補償する必要はない。そもそも補償する必要はない。国民のため、社会のため、国のために行っているのだから、補償は悪いことをする代償であるから、国のために緊急事態宣言をしているのだから補償はあり得ない。

しかし、個人商店も有権者も、自粛の代償を求めた。その慰謝料が休業お礼見舞金であり、10万円のお見舞金である。

これは何度も述べたことだ。

今回の問題の一番目は、緩むという不信感を強く持っている人々に対して、その人々を信頼しないことには成立しない「自粛要請」という手段でお願いしていることだ。

論理的にうまく行くはずがない。

そして、もう1つ重要なのは、経済と命という2つの目的に対する手段の割り当ては180度逆に行っていることだ。

今回、何が何でも延長するという結論を出した理由は、命を救うため、ということだ。少なくともそのポーズをとることを最大限優先するということだ。

経済はいいのか?

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story