コラム

参院選:なぜ安倍政権を倒すことができないのか

2019年07月21日(日)20時00分

自民党は野党よりまともなのか?(7月20日、秋葉原で参院選最終日の街頭演説を行う安倍首相) Issei Kato-REUTERS

<安倍政権を支えたバブルを潰せば貧困層も傷つくので野党には潰せない。ポピュリズムにポピュリズムで対抗しないまともな野党は票が減る。どちらに転んでも良い政策が実現できる見込みはない>

経済政策から言えば簡単だ。

野党もすべてアベノミクスと同じ政策を主張しているからである。

要はポピュリズム、負担先送りですべての党が一致している。

これではアベノミクスを批判しても、それはイメージ戦争に過ぎない。アベノミクスで格差が広がったか、株価が上がり景気がよくなったか、どちらを強調するかの違いに過ぎない。

イメージ戦略では安倍陣営の大勝利で、アベノミクスの最大の勝因はマーケティングイメージ戦略に成功したことである。

デフレ脱却、という呪文は素晴らしく効果をあげた。

野党は格差が広がったというが、それは金持ちが株と土地で儲けた、という事実を儲けてない人々の立場から言っただけのことで、要は資産市場に関してはプラスサムなので、アベノミクスの勝ちだ。今のところ、格差が広がり嫉妬は増えたかもしれないが、貧困層がより貧困になったわけではなく、変化がないだけだ。

長期政権を支えたバブル

インフレにでもなっていれば、より貧しくなったと主張できるのだが、生憎、アベノミクスはインフレを起こすといいながらインフレは起こせていない。これが功を奏してアベノミクスは成功しているのである。確信犯でやっていればすごいが、これはたまたまだ。

野党が勝つためには、現在のバブルが崩壊しなければならないが、このバブルは世界的なバブルであり、このバブルに乗れていなかった日本をこの世界的な流れに乗せたのがアベノミクスだから、アベノミクスだけで自己崩壊するわけではなく、世界的なバブルがはじけないことには日本国内のバブルもはじけない。これはいつおきてもおかしくないのだが、起きていないので、結局起きない。

安倍政権の持続には世界的なバブルの持続という幸運によるものが大きいのだが、それはアベノミクスが優れているからではないと言ってみても、バブルを壊すのは短期的にすべての人間が損をするから、壊そうとするものはいない。タカ派のセントラルバンカーや良識のあるエコノミストならそうするかもしれないが、少なくとも選挙に勝ちたい野党がすることはありえない。

しかも、資産バブルで得をするのは富裕層、崩壊で一番苦しくなるのは景気が悪くなって失業する貧困層だから、バブルつぶしは結局貧困層の敵ということになる。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ミャンマー内戦、国軍と少数民族武装勢力が

ビジネス

「クオンツの帝王」ジェームズ・シモンズ氏が死去、8

ワールド

イスラエル、米製兵器「国際法に反する状況で使用」=

ワールド

米中高官、中国の過剰生産巡り協議 太陽光パネルや石
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 7

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 10

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story