コラム

「アメリカ訛り」BP新社長を喜ぶ人

2010年07月27日(火)22時54分

 米原油流出をめぐる相次ぐ失言・失態でアメリカ国民を激怒させた英石油大手BPのトニー・ヘイワードCEO(最高経営責任者)が、ようやく辞めることになった(あと2カ月も居座るが)。後任には米国部門トップのロバート・ダドリーが就く。

 イギリス人のヘイワードと違って、ダドリーはアメリカ人。BP史上初のアメリカ人CEOになる。しかも彼は流出現場に近いメキシコ湾岸のミシシッピ州で育った。今や「アメリカ社会最大の敵」とまで言われるBPの信用を取り戻すには、やはり地元の人間でなくちゃ、ということだろう。

 ヘイワードの場合、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ということか、彼が話すイギリス英語もアメリカでは嫌われていた。国籍だけでなく言葉も「純アメリカン」なCEOになれば、アメリカ人を安心させる効果は確かにあるだろう。

「ダドリーがCEOに最適の候補である理由は2つある。彼がトニー・ヘイワードでないことと、アメリカなまりで話すことだ」と、あるエネルギー業界アナリストがAP通信に語っている。

 原油流出はひとまず止まったが、BPの前途は多難だ。でもアメリカ人のダドリーが失敗しても、もう「イギリス企業」のせいにされることはないだろう。BPは実は多国籍企業で半分アメリカ化しているのに、イギリス企業として批判する声がアメリカでは強いが、それも変わるはずだ。

 キャメロン英首相はアメリカ人のBPたたきをひどく心配していた。イギリス人の年金の多くはBP株で運用されており、株価が下がれば年金が減るという切実なお国の事情もある。今回のCEO人事を一番喜んでいるのは、案外キャメロンかもしれない。

──編集部・山際博士


このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国人民銀、住宅ローン金利と頭金比率の引き下げを発

ワールド

米の低炭素エネルギー投資1兆ドル減、トランプ氏勝利

ワールド

パレスチナ自治政府のアッバス議長、アラブ諸国に支援

ワールド

中国、地方政府に「妥当な」価格での住宅購入を認める
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story