- HOME
- コラム
- From the Newsroom
- BPを「英国石油」と呼ぶ米国
コラム
ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
BPを「英国石油」と呼ぶ米国
メキシコ湾の原油流出事故をめぐり、米政府・議会による英石油大手BPのバッシングが激しさを増している。「イギリスという外国の企業」を叩くかのような発言も飛び出し、なんだかイヤ~な空気になりつつある。
バラク・オバマ大統領は8日、「自分の生活を取り戻したい」などと能天気な失言を繰り返すBPのトニー・ヘイワード最高経営責任者(CEO)について、「自分ならクビにしているだろう」とNBCの番組で語った。例え話とはいえ、一国の大統領が企業の経営者を解雇すると言うのは尋常ではない。オバマ自身が流出事故への対応が鈍いと批判されているせいか、BPにきつく当たりたくもなるのだろう。
一方、アンソニー・ワイナー下院議員(民主)は、「ブリティッシュ・ペトロリアム(BP)を代表してイギリスなまりで話す者は、誰であれ真実を語っていない」とMSNBCの番組で述べた。これはイギリス人差別とも受け取られかねないヤバい発言だ。これを聞いた司会者は「カモーン!」と突っ込んでいる。
ブリティッシュ・ペトロリアム(British Petroleum)はBPが98年まで使っていた社名。仮に英国石油とでも訳しておこう(ちなみに日本語で「英国石油」をグーグル検索すると、BPの英語サイトがトップに表示される)。
■トヨタが「日本自動車」だったら
米政府関係者にはBPをこの古い社名で呼ぶ人が少なくないと、英メディアは指摘する。それは、日本の国鉄がJRになってからもしばらく国鉄と呼ばれていたようなものかもしれない。だがBPが名前を変えたのは10年以上前だ。
BPをブリティッシュ・ペトロリアムと呼ぶ背景には、ひどい原油流出事故を起こしたのはアメリカ企業ではなく外国の、イギリスの会社であることを強調する意図があるのかもしれない。サラ・ペイリン前アラスカ州知事もBPを「外国の石油会社」と呼んだ。だがBPは98年に米石油大手と合併しており、英タイムズ紙によると、全従業員約8万人のうちアメリカ人は2万2000人で、イギリス人の1万人より多い。株主の39%はアメリカ人で、40%のイギリス人とほぼ互角だ。
こうした官民挙げての「反英発言」の高まりが英米関係を損ねかねないと心配する声が、英当局者から出始めた。イギリスでさえこうなのだから、これがアジアの企業だったらどうなるだろうか。
突飛な連想をしてみた。もしトヨタ自動車の社名が例えば「日本自動車」で、英語名称がGMならぬJM、つまり Japanese Motors (ジャパニーズ・モーターズ)だったら、今年初めのリコール騒動はどんな展開になっていただろうか。もちろんトヨタがアメリカに根を張った日本企業であることはよく知られている。だが日本という国名が社名に入っていれば、日本や日本人に対する差別的な言動を引き起こしやすくなっていたかもしれない。
──編集部・山際博士
この筆者のコラム
COVID-19を正しく恐れるために 2020.06.24
【探しています】山本太郎の出発点「メロリンQ」で「総理を目指す」写真 2019.11.02
戦前は「朝鮮人好き」だった日本が「嫌韓」になった理由 2019.10.09
ニューズウィーク日本版は、編集記者・編集者を募集します 2019.06.20
ニューズウィーク日本版はなぜ、「百田尚樹現象」を特集したのか 2019.05.31
【最新号】望月優大さん長編ルポ――「日本に生きる『移民』のリアル」 2018.12.06
売国奴と罵られる「激辛トウガラシ」の苦難 2014.12.02