コラム

維新の躍進とリベラルの焦りが日本に韓国型の分断を生む?

2021年11月03日(水)10時32分

政治的立場の異なる人を揶揄したり差別したのでは民主主義は成り立たない(写真は阪神ファン、2012) Toru Hanai-REUTERS

<衆院選後、韓国が地域対立を伴うイデオロギー分断に陥った「レッテル貼り」の愚が日本でも繰り返されている>

2021年10月31日、日本の衆議院選挙の投票が行われた。岸田新政権直後の状況の中、果たして与党がどの程度の議席を維持できるか、注目されたこの選挙の結果は、自民党が単独で安定多数を確保する一方、選挙協力を組んで臨んだ望んだ第一野党の立憲民主党と共産党が議席を減らす、という選挙開始当初の予想とは異なる結末になっている。新型コロナ禍の下、苦戦が伝えられていた自民・公明両党にとっては実質的な勝利であり、逆に横浜市長選挙の結果等を受け、大きく躍進することすら期待されていた立憲民主党や共産党にとっては、惨敗だったということができる。

そして、この中で注目されているのが、選挙前の11議席から41議席へと大幅に議席を伸ばした日本維新の会の存在であり、選挙前の主要な与野党の議席数を失ったこの選挙において、同党が唯一大きく議席を伸ばしたことである。既に指摘されるように、自民党が失った票の多くの部分が日本維新の会に流れ込み、彼らがその利益を受けたことは明らかである。

大阪の「民度」を問う声も

筆者は日本政治の専門家ではなく、故にその詳細な原因について論じる立場にはない。しかしながら、ここで取り上げたいのは、この躍進の中心となったのが、元来、日本維新の会が基盤とする大阪においてであり、SNSを中心とするインターネットの各所で、この大阪の状況を揶揄する声が、強く上がっていることである。曰く、新型コロナ禍において多くの死者を出したにもかかわらず、府政与党の維新の会が勢力を伸ばしたのは非合理であり、それは大阪の有権者の未熟さを示すものではないか。そしてそこから甚だしくは「民度」という差別的な言辞を用いて、大阪の有権者を嘲笑し、ののしる言葉すら溢れている。つまり、「お笑い百万人」「吉本の土地」である大阪の人々は、まともに政治を考える能力を持たないのだ、と。そこに予想外の惨敗を喫した、「リベラル」な人々の焦燥感の表れを見ることは難しくない。

とはいえ、実は世界の多くの国を見れば、一国内のある地域において、特定のイデオロギー的傾向を持った政党が大きな勢力を持つのは、それほど珍しいことではない。例えば、イギリスのスコットランドはある時期まで労働党の支持基盤だったし、アメリカでも、多くの州は赤と青、つまり、共和党が強い地域と、民主党が強い地域のどちらかに色分けされている。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米インフレ、目標上回る水準で停滞も FRB当局者が

ビジネス

再送-米マイクロソフトがXbox開発スタジオを一部

ビジネス

介入の有無、予見を与えるため発言控える=鈴木財務相

ワールド

バイデン氏、大学卒業式の平和的抗議を歓迎
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story