コラム

国際交流を奪われた悲しき五輪で角突き合わせる日本人と韓国人

2021年07月23日(金)18時00分

韓国選手団が選手村に掲げた垂れ幕(7月17日) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<新型コロナウイルスのせいで外国選手団が感染源のように見られる異様な五輪の環境下、韓国選手団は本国での行動を剥き出しにしてますます反感を買っている>

様々な、実に様々な出来事を経て、東京五輪がついに開幕した。日本が五輪開催国となったのは、1964年の東京、1972年の札幌、そして1998年の長野についで4回目であるから、初めての事ではない。

しかしながら、今回の五輪はこれまでの3回の大会とは、雰囲気が全く異なっている。とりわけ異なるのが、各国の選手団を取り巻く状況だ。過去の五輪においては、世界各国からの選手団は、空港から事前の合宿先、さらに選手村で丁重に迎えられた。

とりわけ1964年の東京五輪は、日本が開催する初の大規模な国際スポーツ大会であり、だからこそ人々は海外からの選手団を熱狂的に歓迎した。未だ外国人を街で見ることが稀だった時代のことである。1998年の長野五輪では「1校1国運動」が行われ、小中学生らが定められた国について事前に学び、応援する試みも行われた。この試みはIOCからも高い評価を受け、シドニー五輪以降の大会において参照されるに至っている。

東京五輪ボイコット運動を展開

わかりやすく言えば、これまでの五輪はスポーツ大会であると同時に、多くの人々にとって国際社会への理解を深め、実際の交流を行う機会を得る場だった。しかしながら、新型コロナウイルスの拡散下で行われる今回の五輪では、そのような五輪の性格はすっかり影をひそめてしまっている。そこではむしろ、世界各国からやってくる選手たちは、海外から新たなウイルスを持ち込む厄介者であるかのように扱われ、その行動には歓迎の目よりもむしろ、批判と警戒の目が向けられている。

とはいえ、今回の五輪において、これを国際交流の場として利用とする事に対して後ろ向きなのは、受け入れ側の日本社会だけではない。とりわけ物議を醸しているのは、韓国政府や世論、選手団の動きである。五輪開催の以前から、聖火リレーのルート等を示す地図において、竹島(韓国名独島)が日本領として表示されている事への抗議運動が拡大した韓国では、世論調査において、状況が改善されない限り「東京五輪をボイコットすべき」と答えた人の割合が、一時期、70%をも超えることになっている。

来日した韓国選手団は選手村に、豊臣秀吉の朝鮮出兵時における、朝鮮王朝の名将李舜臣の言葉として知られる「尚有十二舜臣不死」をもじった「臣にはまだ五千万の国民の応援と支持が残っている」という言葉が、ハングルで書かれた垂れ幕を掲げて物議を醸した。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国CPI、4月は前年比+2.9%に鈍化 予想下回

ビジネス

為替、購買力平価と市場実勢の大幅乖離に関心=日銀3

ビジネス

英GSK、1─3月利益と売上高が予想超え 通期利益

ビジネス

JPモルガン、ロシアで保有の資産差し押さえも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story