コラム

ヘンリー王子「王室引退」への不満と同情と

2020年01月14日(火)16時40分

ヘンリーの引退表明とそのやり方に衝撃が広がる一方で、同情や惜しむ声も出てきている。英王室は、欧州諸国の王室と比べても概して多忙で自由がない。「金魚鉢」に暮らし、マスコミやエンタメ界から格好の餌食にされる。日本で『ザ・クラウン』(エリザベス女王を主人公にその波乱やロマンスを描くドラマ)みたいな番組が作られるとは思えないし、コメディアンが皇室を際どいネタにするなど考えられない。

今回の危機がどう展開するのかはまだ分からないが、ヘンリーとメーガンが彼らの決断を正当化できるだけの新たなアイデンティティーを獲得できる可能性だってあり得る。彼らは「汚い」商業主義や「現役」王室からの資金援助に頼ることなく、積極的な役割を果たす道を探らねばならない。

英王室にはこの手の前例があり、1936年にはエドワード8世が王位を捨て、内気で吃音(きつおん)の弟ジョージ6世が跡を継ぐという危機が起こった。もっと近いところでは、チャールズ皇太子とダイアナ妃の離婚劇も悲惨だった。でも英王室はどちらも乗り越えた。実際、時がたって人々は、これらの事件をやむを得ないもの、あるいは最善だったとさえ考えるようになっている。耐久力は英王室の大きな特徴の1つだ。今こそその強靭さを発揮するときだろう。

<本誌2020年1月21日号掲載>

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2020年1月21日号(1月15日発売)は「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集。ソレイマニ司令官殺害で極限まで高まった米・イランの緊張。武力衝突に拡大する可能性はあるのか? 次の展開を読む。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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