コラム

アストラゼネカ製コロナワクチン、欧州15カ国以上で使用を一時中止。火付け役はEUというより北欧の国々

2021年03月17日(水)10時35分
欧州医薬品庁(EMA)のエマー・クック長官

ベルギー・ブリュッセルでオンライン会議に出席する、欧州医薬品庁(EMA)のエマー・クック長官 Yves Herman-REUTERS

<こと自分の健康の問題となると、欧州やEU諸国も統一基準より国家主義が優先しがち。なかでも北欧の基準はとくに厳しい>

3月15日、フランスとドイツが、アストラゼネカ社製のワクチンの投与を、一時中断した。同日午後には、イタリアとスペインも続いた(同社はイギリス&スウェーデンの会社)。

数日後の3月18日(木)に、欧州連合(EU)の機関である「欧州医薬品庁(EMA)」の臨時会議があるという。それまで一時中止ということになっている。

今までこのEU機関は「同社製のワクチンは安全である」としてきたが、次から次へとこのワクチンの投与を中止する国が増えたため、新たな対応を迫られたのである。

15カ国以上が一時中止

一時中止している国は、一般的に日本で報道されているより、ずっと多い。

筆者がフランスの報道で把握しているのは、デンマーク、ノルウェー、アイスランド、オーストリア、さらにエストニア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、ブルガリア。アイルランド、オランダ、そしてフランスにドイツ、イタリア、スペイン。欧州で15カ国ある。

欧州の国以外では、タイが12日(金)に使用中止、コンゴ共和国が投与を延期した。

今回、フランスとドイツ、欧州医薬品庁の三者は、足並みをそろえたと考えるべきだろう(イタリアとスペインも?)。当初は、欧州医薬品庁の発表は16日(火)とされたのだが、すぐに18日(木)に変更となったという。

デンマークから始まりドミノ倒しのように

皮切りだったのは、デンマークである。3月10日(水)に、ワクチン接種を受けた60歳の女性が血栓を形成して死亡したことを受けて、同社のワクチン接種すべてを、2週間停止した。

この動きは、「アストラゼネカ社のワクチンを接種した人々の間で血栓の重篤な事例が報告されたことを受けたものである」と、デンマーク保健当局は声明で述べている。

しかし、「現時点では、ワクチンと血栓の間に関連性があるとは判断されていない」と慎重に付け加えている。

ノルウェーもすぐに追随し、同社のワクチン接種をすべて中止した。アイスランドやブルガリアも同様である。

ノルウェーでは14日(土)に、デンマーク、アイスランド、ブルガリアと同様に、同社のワクチンを接種した比較的若い人たちに、皮膚の出血が見られた事例について懸念を示した。しかし、ワクチンとの関連性はまだ確立されていない。

オーストリアでは、49歳の看護師が、注射を受けた数日後に「重度の血液凝固障害」で死亡したことを受けて、同社製ワクチンの使用を中止したことを発表した。別の35歳の女性は、ワクチン接種後に肺に血栓ができたが、回復しているともいう。

また、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグの4カ国も、使用を停止した。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トムソン・ロイター、第1四半期は予想上回る増収 A

ワールド

韓国、在外公館のテロ警戒レベル引き上げ 北朝鮮が攻

ビジネス

香港GDP、第1四半期は+2.7% 金融引き締め長

ビジネス

豪2位の年金基金、発電用石炭投資を縮小へ ネットゼ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story