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冷戦思考のプーチン、多様性強調のバイデン 米欧露が迎える新局面とは?
バイデン大統領とネット会談を行うプーチン大統領(2021年12月7日) Sputnik/Sergey Guneev/Pool via REUTERS
<プーチンはアメリカしか相手にしていないが、バイデンは違う──「ウクライナに米軍を派遣しない」と述べた真意は? 1月の交渉はどのように運ぶのか>
ロシアがトーンをやや変えた。
12月23日、プーチン大統領は年末恒例の記者会見で、「今のところ、我々は肯定的な反応を見ている。アメリカのパートナーは我々に、年明けにジュネーブでこの議論、この交渉を始める用意があると言っている」と述べた。
これまでの一週間は緊張が漂うものだったが、交渉に少しだけ希望が見えてきた。
ロシアのラブロフ外相は、ロシア大統領顧問のユーリ・ウシャコフ氏と、米国国家安全保障顧問のジェイク・サリバン氏が中心となって、「1月中に」開始されるはずだと詳細を説明した。
この1カ月の歩みを見てみたい。
12月8日、バイデン大統領は、ロシアがウクライナに侵攻した場合に米軍をウクライナに派遣することは「検討していない」と述べた。
その後12月17日、ロシアは、アメリカと北大西洋条約機構(NATO)に無理難題を提示した。
それは、1997年の状態に戻すこと。つまり、NATOが東欧に拡大する前の状態に戻すということだ(東ドイツは1990年の統一ドイツ加盟なので問題に入らない)。
具体的には以下のようなものだ。
◎バルト3国は今NATO加盟国だが、NATO軍を置かない。
◎ウクライナ、ジョージア、その他の候補国に、NATOのさらなる拡大をしない。
両国にNATO加盟の道を開いた2008年の決定を「正式に」破棄する。
◎相手方の射程内に短・中距離ミサイルを配備しない。
◎NATOはウクライナだけでなく、もっと一般的に東欧、中央アジア、南コーカサスでいかなる軍事活動も行うべきではない。
上記の要求は、四半世紀の歴史の歩みをなかったものにしたいという、無茶苦茶な内容である。
これらの経緯は、日本に不安を呼び起こした。何と言っても、バイデン大統領が、ウクライナに軍を出さないと明言したことがである。
「交渉の段階で、そんなことをはっきり言って良いのか」、「手の内を見せてしまっては、交渉にならないではないか。昔のアメリカなら、力を誇示しつつ、際どい緊張感のある交渉をして、有利な条件や状況を勝ち取ったのに」というのだ。
バイデン大統領の能力や姿勢を不安視し、もし台湾有事で同じことになったらと、心配しているのである。
日本の周りはまだ冷戦態勢なので、この不安は理解できる。筆者も「そこまではっきり言わなくても」とは思った。
でも、米欧関係を見続けていると、それほど意外でもなかったし、別の意味があるように思う。このことを、以下に説明していきたい。
まず、プーチン大統領は、アメリカしか相手にしていないが、バイデン大統領は違う。
フランスのマクロン大統領は、プーチン大統領と実際に会う会談を望んでいるが、無視である。「ガン無視」と言っていいかもしれない。ドイツのショルツ首相に対しても同様である。
22日になって、やっと独仏首脳との電話会談だけは実現した。
プーチンの頭の中は、完全に冷戦思考になっている。でもそれは真理でもある。「軍事で日本と話す必要などない。アメリカと話せばいいんだ」というのに似ている。かえってプーチン大統領の本気度を感じさせた。
プーチンとバイデンの両大統領の会談は、今後は予定にないというが、両国の主要政治家たちの交渉は続いている。
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