コラム

イランで迫害されるキリスト教徒を顧みないメディアの偽善

2020年02月07日(金)19時00分

イランでキリスト教信仰は認められているが、厳しい制限が付く RAHEB HOMAVANDI-REUTERS

<「棄教者は神と体制への反逆者」とされるイラン――信教だけでなく、表現や報道など自由を求める者たちが容赦のない口封じに遭っている>

反体制デモの続くイランで、メアリーの名で知られる21歳のキリスト教徒女性が当局に拘束されたと伝えられた。イスラム教からキリスト教に改宗した大学生の彼女は、SNSでの体制批判で知られていた。テヘランで拘束される直前にも、イラン人は体制が読ませたいニュースだけを読まされるという「ソフトな弾圧」に直面している、とツイートしていた。

イランではイスラム教を棄(す)て他の宗教に入信することは禁じられている。メアリーはキリスト教への改宗を理由に投獄された10人のイラン人についてツイートしたところ、昨年12月21日に大学から追放処分を受けた。1月12日に当局による拘束が伝えられた後、彼女の消息は完全に途絶えた。

キリスト教徒の迫害を監視するNGOオープン・ドアーズによると、2018年末からの1年間にイランで宗教を理由に拘束されたキリスト教徒は169人。同NGOが1月に発表した世界のキリスト教徒の迫害状況を報告する「ワールド・ウォッチ・リスト」で、イランは世界で9番目に迫害が苛烈な国とされた。上位10カ国にはアフガニスタン、ソマリア、リビア、パキスタン、イエメンなどイスラム諸国が並ぶ。

世界で昨年1年間に攻撃された教会などキリスト教関連施設は9488カ所、宗教を理由に投獄されたキリスト教徒は3711人、殺害されたキリスト教徒は2983人とされる。サハラ以南のアフリカでのイスラム過激派によるキリスト教徒への暴力の急増も指摘された。

レイプ犯を銃殺した女性が絞首刑に

昨年末、「イスラム国」は指導者バグダディの死に対する報復として、ナイジェリアでキリスト教徒11人を横並びにし斬首する映像を公開した。1月18日に「イスラム国」が公開した映像では、覆面をした戦闘員が「全世界のキリスト教徒」に対して報復を宣言し、キリスト教徒を銃殺した。

キリスト教徒の信仰の自由が政府の規制や過激派の暴力で著しく制限されている例は、イスラム諸国では枚挙にいとまがない。

米国国際宗教自由委員会(USCIRF)は昨年9月の報告で、世界で最も迫害されている宗教の信徒はキリスト教徒であり、その迫害は加速していると警告した。だがメディアはキリスト教徒の迫害の実態をほとんど伝えない。

プロフィール

飯山 陽

(いいやま・あかり)イスラム思想研究者。麗澤大学客員教授。東京大学大学院人文社会系研究科単位取得退学。博士(東京大学)。主著に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『中東問題再考』(扶桑社BOOKS新書)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、20万8000件と横ばい 4月

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story