コラム

年間3万人の死者が出る現実を直視できない、銃社会アメリカの病理

2019年09月11日(水)16時45分

見逃せないのは、アメリカ社会の分断工作を担うロシアの情報機関から秘密裏にNRAに多額の資金が流入している疑いが持たれていることだ。

世論調査ではアメリカ人の61%が銃規制強化を支持し、97%が銃購入時の身元確認などのチェック強化を支持している。NRAは目下、不正会計や幹部の腐敗問題に揺れていて、資金不足にも陥っている。ロシア疑惑も追及されかねず、今後は影響力が低下する可能性もある。

猟銃以外は全て禁止に

これは個人的な見解だが、私は職務上ありとあらゆるタイプの銃を撃ってきたし、射撃は好きだ。それでも銃に関連した事件や事故で年間3万人が死亡する現実があるのに、多くのアメリカ人が公共の安全よりも銃所持の個人的な満足を重視しているとしたら、それは「狂気の沙汰」としか言いようがない。

彼らとて食品の安全性や水質管理など公共の安全のために規制が必要なことは認めている。なのに、なぜ銃規制には猛反対するのか。

銃の危険性を考えれば、狩猟用のライフルを除き、銃所持をほぼ完全に禁止してもいいくらいだ。だが、そう考えるアメリカ人は28%にすぎない。

私はいわば「アート」としての武器の設計や性能に興味がある。日本のゼロ戦や英スピットファイア、アメリカのP51マスタングについて熱く語るのはワクワクするが、だからと言って個人が戦闘機を保有することは許されない。同様に戦争のための武器を個人が保有することも容認されるべきではない。

<本誌2019年9月17日号掲載>

【関連記事】【歴史】NRAが銃規制反対の強力ロビー団体に変貌するまで
【関連記事】銃乱射でPTSDを受けるアメリカの医師たち 銃反対運動が救いに

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グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

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