コラム

フランス外交には女性改革が必要だ

2019年05月23日(木)14時45分

フランスの外務省にとってもっとも大切な大使館のトップ10は以下の通りです。米国、中国、ロシア、イギリス。インド、モロッコ、トルコ、アルゼンチン、コートジボアール、日本──
最初の四カ国は国連安保理常任理事国で、次の六つは経済的(インド、コートジボアール、日本)あるいは政治的(モロッコ、トルコ、アルゼンチン)に重要な国です。いずれにしても、これらの名誉ある大使館では、およそ70年間で女性大使は1人だけ、シルヴィ・ベルマン(2010年代に中、英、露で仏大使)だけでした。割合にすると、3割どころか2%以下なのではないでしょうか。

フランス政治のエリートを育成するフランス国立行政学院(ENA)ではこの20年間、大勢の女性が卒業しました。しかしいざ外務省に入ると、なかなか昇進できません。外務省はフランス官庁の最後の恐竜といえるでしょう。

ENA出身ではなかったニコラ・サルコジ元大統領(2007〜2012)は官僚が大嫌いで、最も閉鎖的な外務省に男女平等な政策を行わせ、たった3年で22人の女性を大使にしました(教養のあるカルラ・ブリュニ夫人の影響もあったでしょう)。次のフランソワ・オランド政権のファビウス外務大臣も改善に挑みましたが、少しずつ外務省に逆襲されました。

出世システムを持たない女性

なぜ女性は出世できないのか。フランス社会は家族や子育てには寛大ですから、出産や母親業は女性外交官の出世率の低さの原因にはなりません。先のリベラシオン紙の特集では、男性外交官は政治で大事と言われる出世競争に多くの時間を注ぐのに対し、女性は生真面目に与えられたミッションを最後まで果たすことに重きをおくと、ある社会学者が説明しています。男性の方がずるいという短絡的な結論ではなく、男性陣の出世を助ける男性だけの組織(クラブ)や習慣(スポーツ観戦など)が、女性陣を支えるグループより多いということです。

マクロン政権のカリスマで、若く雄弁なマルレーヌ・シアッパ首相付男女平等・差別対策担当副大臣は仏メディアでは救世主として紹介され、ジャンヌ・ダルクの再来とも見られています。ジャンヌ・ダルクは火刑にされたので、嫌な予感がしますね。一体、フランスに何が必要なのでしょうか。パリ市長のアンヌ・イダルゴは2024年のパリ五輪と、長い間見捨てられていたパリ郊外の再生という偉大な構想を成功させたら、次期首相の道もあるかもしれないと言われます。マクロン大統領の続投は今のままなら難しそうです。

プロフィール

フローラン・ダバディ

1974年、パリ生まれ。1998年、映画雑誌『プレミア』の編集者として来日。'99~'02年、サッカー日本代表トゥルシエ監督の通訳兼アシスタントを務める。現在はスポーツキャスターやフランス文化イベントの制作に関わる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、カイロに代表団派遣 ガザ停戦巡り4日にCI

ワールド

フランスでもガザ反戦デモ拡大、警察が校舎占拠の学生

ビジネス

NY外為市場=ドル/円3週間ぶり安値、米雇用統計受

ビジネス

米国株式市場=急上昇、利下げ観測の強まりで アップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story