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【書評】Life after Google──なぜGoogleの時代が終わるのか
シンギュラリティは来ない!?
さてGoogleの時代とは、どんな時代なのか。いつ終わり、次にどのような時代がくるのか。この本のそういったメインテーマとは別に、ほかにも興味深いGilder氏の時代考察がこの本の中にはいくつも出てくる。例えばAI新聞編集長としては、「(3)AIは今後加速度を増して進化し人間より優秀になるという考え方」が終わる、という主張が一番気になった。
Gilder氏は、AI万能主義者ではない。AIを単なる数理モデルと考えていて、実際の脳とは大きく異なるものだと考えている。
「実際の脳の研究では、人間の脳はAIのようなロジックマシンではなく、感覚プロセッサーであることが分かってきた。だが今のAI産業は、ロジックマシンとしての研究開発を続けている」と言う。
またAIが扱う数学自体にも問題があると言う。「AI研究者は、20世紀数学の最大の発見であるアルゴリズム情報理論とまだ向き合っていない。すべてのロジックは不完全であり、証明できない前提をベースにしていることを、AI研究者たちは理解していない」「今日のコンピューターに使われている決定論数学のロジックでは、情報が持つサプライズに対応できず、本当のクリエーションを反映しない」と言う。
僕自身、最新の脳神経科学、高等数学にうといので、Gilder氏の主張が正しいのかどうかよく分からない。多分、人間や自然、宇宙というものは不確定要素が多分にあり、すべて決まりきった数式で表現できるものではない、というような意見なんだと思う。
また同様の理由で、Gilder氏はシンギュラリティに関しても、懐疑的だ。
本の中では物理学者のMax Tegmark氏が書いた「Life3.0」を取り上げて、批判している。Life3.0は、超人類(サイボーグ)の時代を指している。超人類は、AIを自分の体内に取り込んで、自分で自分を賢くしていくのだという。Tegmark氏によると、今の人類がAIを作る最後の人類になるという。
このTegmark氏の主張に対しGilder氏は、「人間の脳はコンピューターではない。意識である」「意識は思考から生まれるのではなく、思考の源泉である」と反論する。また遺伝子工学についても、「今の遺伝子工学は車のエンジンのチューニングをしているレベル。エンジンを再設計できるようなレベルではない」とする専門家の意見を紹介している。
僕も意識は思考から生まれるのではない、と思っている。あるAI研究者は著書の中で「意識は、自分の思考をメタ認知することではないか」というようなことを書いている。自分が考えていることを、もう一人の自分が上から見ている。そんな状態を意識と定義しているようだ。なので、思考という計算をするAIを、別のAIの思考が認識するという仕組みができれば、意識を作ることができる、と考えているようだ。
確かに考え事をしている自分を、別の自分が眺めているという感覚を持つことがある。思考を認識する思考。これならAIで実装できるかもしれない。
しかし瞑想していると、思考がほぼ停止して、心が澄み渡ることがある。思考はないのだが、そこには意識がしっかりとある。意識はいつも以上に研ぎ澄まされていて、五感を通じて周りの状況を認識している。僕はヨガ、瞑想が趣味なんで、この感覚を頻繁に感じる。Gilder氏の言うように、意識があり、そこから思考が立ち上がっているのが分かる。仏教では、心の奥底には空(くう)と呼ばれる領域があり、そこから直感やクリエイティビティ、感情、思考が起こってくる、と説いているが、まさにそんな感じだ。
本当の意識って何なんだろう。果たしてどれくらいの人が心の仕組みを正確に理解しているのだろうか。
恐らく今のAI研究者は、心の仕組みを十分に理解していない。逆に、心の仕組みを理解するためにAI研究があるのかもしれない。試行錯誤を続けてAIを進化させていく中で、「なるほど人間の脳って、こんなふうになっているのかもしれない」と分かるようになるんだなと思う。
なので今のわれわれの脳の理解のままで、AIは意識を持つようになると断言することは、乱暴過ぎる議論だと思う。遺伝子工学で、人間を自由自在に改良できるようになる、という意見も乱暴だ。
いずれAIが意識を持つようになるかも知れない。遺伝子工学で人間を自由自在に改良できる時代になるかもしれない。でも現状を見る限り、一足飛びにはそういう時代になりそうもない。
次の進化は、シンギュラリティへの一足飛びではなく「ブロックチェーンを使って人間が機械を支配し、機械は頭のいい奴隷として人間に仕える時代になる」とGilder氏は予測している。
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