コラム

【書評】Life after Google──なぜGoogleの時代が終わるのか

2018年08月10日(金)16時00分

有名大学を卒業し大手IT企業に勤めるというキャリアパスへの疑問

「(4)AIを進化させるために優れた大学教育が必要だ」という考え方に関して、Gilder氏は、投資家Peter Thiel氏の「1517プロジェクト」に言及している。Thiel氏は、ここ最近の米国の有名大学の授業料高騰と、有名大学卒業生を過大評価するシリコンバレーの風潮に幻滅しており、大学に行かないことに決めた20才以下の天才に対し、このプロジェクトを通じ巨額の支援金を与えている。

1517年は宗教革命の際にルターが、ローマ教会に抗議してヴィッテンベルクの城内に95ヶ条の論題を打ちつけた年だ。かなりの授業料を支払えばもらえる卒業証書は、お金を払えば罪を許してもらえるという免罪符と同じ。そんな紙切れをありがたがる風潮はおかしい、というのがThiel氏の主張だ。

米国のクリエイティビティを再燃させるためには、いい大学を出て大手のIT企業に入社するというキャリアパスだけではだめだ、というわけだ。。

実際にイーサリアムを開発したButerin氏も、このプロジェクトの卒業生。同氏以外にも、自動走行車用の車載センサーを開発した若者など、ものすごい優秀な若者が次々このプロジェクトから卒業している。

「Googleの時代の仕組み」の中でどれだけがんばっても、最終的にはGoogleなどの大手に敗退するか、買収されるだけ。それよりも、ブロックチェーンが可能にする新しい時代の仕組みの中で戦うほうが、よほどおもしろいことができる。ブロックチェーンの周辺に若き天才が集まり始めたことは、時代変化の証拠の1つなのかも知れない。

読み終えて

英語で読むと難解な表現がたくさん出てきて、結構読むのが大変な本だった。日本語版が出て、この問題について広く議論されるようになってもらいたいと思う。

特にシリコンバレーのIT大手に権限が集中する時代から、より分権の時代になれば、日本企業もおもしろい動きができるようになるかもしれない。

そう考えると、ワクワクする話だ。ブロックチェーンは、現在進行形でものすごい勢いで技術革新が続いている。何ができて、何ができないのか。どこにビジネスチャンスがあるのか。もうあと1年もすれば、その可能性の全貌が見えてくるのだろうと思う。しばらく追っていきたい。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story