コラム

【書評】Life after Google──なぜGoogleの時代が終わるのか

2018年08月10日(金)16時00分

クラウドの次はスカイコンピューティングの時代

大量のデータを1つのところに集めてAIで解析するという今のパラダイムの必勝法は、いずれ時代遅れになる。その理由は、セキュリティに問題があるから。またこのまま続けると投資対効果が低下する一方だから。なので新たなパラダイムに突入するとGilder氏は主張する。

空の上にGoogleのクラウド(雲)、Amazonのクラウド(雲)など数個のクラウドがあり、それぞれが大きくなって空を覆い尽くそうとしている。と思えば、一気に霧散。雲は水蒸気の粒となって空いっぱいに広がりブロックチェーンで相互に繋がる。そして見た目には、青空が大きく広がる。そういうイメージからGilder氏は、クラウドコンピューティングの次はスカイコンピューティングだと命名している。

いつになればスカイコンピューティングの時代になるのだろうか。Gilder氏は、最近のセキュリティに関する事件を列挙し、「あと何回、プライバシー侵害やデータ漏洩の事件が起これば、人々は今のコンピューティングのあり方に疑問を持つようになるのだろうか」と言う。

この部分が僕自身一番気になっているところだ。スカイコンピューティングのほうが優れた設計思想であるのかも知れない。いずれはそういう時代になるのだと思う。でもいつそうなるのかが重要だ。急に変化するからこそ、ビジネスのチャンスがあり、落とし穴があるからだ。

インフラのオープンソース化でネットが拡大

スカイコンピューティングのメリットはセキュリティ強化だけではない。インフラのプロトコル部分がオープンソースで大きく進化し、インターネットの可能性がさらに大きく拡大することにはつながるかもしれないからだ。

今はインフラ部分の技術を改良できるのは、Googleのような大手だけ。データファイルの取り扱いを簡単便利にしたGoogle file systemや、分散コンピューティングのためのMapReduceのようなインフラプロトコルは、自分のデータセンターを効率運営するために自社で開発しなければならない。一方でスカイコンピューティングの時代になると、多くのサードパーティの開発者がインフラプロトコルの開発に参加できるようになる。事実、ブロックチェーンの周辺では、各種のインフラプロトコルが次々と開発されている。個人情報を保護するのに有効な技術は今後次々と改良されるだろうし、物の所有権に関しても記録の取り扱いに便利な技術が次々と改良され続けていくことだろう。Googleのデータセンター担当者が「進化がもう限界に近づいている」という頭を抱えている課題も、世界中の開発者が寄ってたかって開発を助けることで解決する可能性は高い。

大きく拡大するインターネットの可能性の1つとして、計算資源の有効利用がある。スマートフォンを肌身離さず持ち歩き利用している人でも、寝るときは充電器に繋げて放置する。寝ている間のスマホの計算資源は、まったく使われていないわけだ。もし安心安全な技術があれば、こうした使われていない計算資源を有効利用できるようになる。

数学、言語学、医療などの研究分野の大量の計算にはこれまで大規模コンピューターが必要だったが、Gridcoinというベンチャー企業は、ユーザーが眠っている間のスマートフォンやパソコンを自動的に遠隔操作し、これらの研究分野の大量の計算を行うプラットフォームを開発している。協力してくれるユーザーにはコインが支払われることになる。記録を改ざんできないブロックチェーンを使った安全で安心な仕組みがあってこそ、成立するビジネスモデルだと言える。Gilder氏の今回の本の中では、Gridcoinのほかに、ルーターなどのフォグコンピューティングの計算資源を共有して有効活用するSONM.io などの取り組みが紹介されている。

Gilder氏によると、ブロックチェーンの安全性と今後の機能拡充の可能性に多くの人が気づき、ブロックチェーンにデータが乗り始めれば、巨大データセンターを作る必要がなくなるという。また一旦多くのコンピューターがブロックチェーンで繋がるようになれば、「既存のサービスがブロックチェーン上で展開されるようになるのは時間の問題」としている。

無料サービスを通じてユーザーのデータを大量に取得して処理する。今のGoogleなどIT大手のビジネスモデルが意味を持たなくなるわけだ。

いずれ雪崩を打つように時代は変化する。そのティッピングポインとは、いつなのか。何がきっかけになるのだろうか。非常に気になるところだ。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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