コラム

【書評】Life after Google──なぜGoogleの時代が終わるのか

2018年08月10日(金)16時00分

データセンターが競争力の源泉というGoogle時代の終焉

Gilder氏はまもなくGoogleの時代が終わると宣言しているが、Googleの売り上げや企業規模が急に縮小するといっているわけではない。「Googleは10年後も重要な企業であることは間違いない」と言っている。

ただGoogleに代表されるような米シリコンバレーのビジネスの仕方や、考え方、理想などが崩壊する、とGilder氏は主張する。正確にはGoogleという「時代の仕組み(system of the world)」が崩壊する、と表現している。

Googleという「時代の仕組み」とはどういうものを指すのだろう。同氏によると、主には(1)できるだけ多くのデータを集めてAIで解析するという仕組み、(2)サービスを無料で提供し広告収入を得るという仕組み、(3)AIは今後加速度を増して進化し人間より優秀になるという考え方。(4)AIを進化させるために優れた大学教育が必要だという考え方、などが時代にそぐわなくなってきている、という。Googleという「時代の仕組み」は、こうした実際のビジネス戦略から思想までを包括している。(3)、(4)はGoogle1社というより、シリコンバレーや米IT業界で現在主流となっている考え方を指している。

ではなぜこうした戦略や考え方が時代遅れになろうとしているのだろうか。
「(1)できるだけ多くのデータを集めてAIで解析するという仕組み」は、ビッグデータと呼ばれるような戦略や考え方を指している。Googleは、検索を始め、メールやスケジュール、地図などで、ユーザーのデータを大量にデータセンターに集め、最新の半導体と最新のソフトウエアで解析している。

Googleの強さの源泉は検索エンジンにあると思っている人が多いが、Googleの前CEOのEric Schmidt氏は前職のSUN時代に「これからの時代は、無数のサーバーを高速ネットワークでつなぎ、優秀な検索とソート技術を持つところが勝つ」と語っている。まさにその考え通りのことを同氏は、Googleに入社して実現した。Googleは電力が豊富な地域に大規模データセンターを設け、半導体を自社開発し、高速ネットワークでつないでいる。世界屈指のデータセンターを構築している。

この世界屈指のデータセンターこそがGoogleの強さの源泉である、と投資家のBechtolsheim氏は語っている。「巨大データセンターさえできれば、あとは好きなサービスを次々ローンチさせるだけ。競合他社は追いつけなくなる」と言うのだ。

一方で、巨大データセンターには問題もある。ブロックチェーンなどの非中央集権型のコンピューティングの仕組みに比べると、設計思想的にハッキングに弱い。1社のデータセンターをハックするのと、世界中に点在する何万というコンピューターのをすべてハックするのでは、当然ながら前者の方がハックしやすい。

データーセンターからブロックチェーンへ

またデータセンターが大きくなればなるほど、追加投資のコストパフォーマンスが悪くなる。追加でサーバーを大量に購入してデータセンターを大幅増築しても、サービス内容はそれほど変わらないし、売り上げがそれほど伸びるわけでもない。

Googleのデータセンター担当重役のUrs  Holzle氏は、7年間でデータセンターの通信帯域を6倍にした。コストはかなりかかったが、それでも十分な速度は出ない、と言う。「もう限界に近づいている」と語っているそうだ。

データセンターの一極集中型よりブロックチェーンのような分散型のほうがセキュリティが優れている、という議論はこれまでに何度も聞いたことがある。しかしデータセンターの投資対効果が小さくなる一方なので、データセンターの巨大化には限度がある、という議論は、これまで耳にしたことがなかった。もしこの議論が正しければ、確かに時代は新しいパラダイムに向かうのかもしれない。

「(2)サービスを無料で提供し広告収入を得るという仕組み」が時代遅れになりつつある、という主張の根拠として、Gilder氏は、iPhoneの広告ブロッカーを挙げている。Appleは、ユーザーの要望を反映してiPhoneに広告ブロッカーを搭載した。Googleのモバイル広告の売り上げの75%はiPhoneからといわれており、広告ブロッカーがGoogleにとって大打撃になったといわれている。

また広告の最適化のために、行動履歴や購買履歴を始めとするプライバシーにかかわるようなデータを事業者が収集するという今のあり方に対しても、消費者が反発するようになる、という。特にデータ漏洩などの事件が増えてくれば、消費者の反発が強まっていくはずだと、している。

これがGoogleの時代が終わるというGilder氏の主張の根拠だが、僕には正直よく分からない。嫌な広告は排除したいという人の方が増えていくのか、広告は我慢するので無料のサービスのほうがいいという人が根強く残るのか。どっちなんだろう。注意深く推移を見守っていきたい。

「(3)AIは今後加速度を増して進化し人間より優秀になるという考え方」、「(4)AIを進化させるために優れた大学教育が必要だという考え方」が時代遅れになるという主張に関しては、個人的には大変興味があるものの、本題ではないのであとで議論したい。まずはGoogleという「時代の仕組み」が終わったとき、どのような時代になるとGilder氏は主張しているのか。そこの部分を見ていこう。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story