コラム

「IoTに八百万の神を」内向的な電通女性クリエイターがデバイスに込める日本の心

2015年07月31日(金)12時54分

 昨年のはじめ、「IoT時代になる」「身の回りが30億個のセンサーであふれる時代になる」というような記事を目にするようになった。未来の生活はそこから逃れられない、と感じた。でも身の回りのものに単にセンサーを取り付けるようなIoT(モノのインターネット、Internet of things)にだけはしたくなかった。そんなの買いたくない。うちに置いておきたくない、と思った。センサーやネット技術はいずれ電化製品に内蔵され、人の目につかなくなる方向に進化する。でも過渡期には、外付けでセンサーを取り付けるしかない。どうせ付けるのならかわいくしたいし、付けるだけの付加価値も欲しい。

 いろいろとアイデアは出てきたのだが、「夢の中に3回出てきたので、mononomeで行こうって思いました」。何日も掃除機に触らないと、掃除に取り付けられた「目」がさびしそうな表情に変わる。「かぁさま、掃除機がさびしがってるよ」。子供がそう言うシーンが浮かんだ。

 長い間、使わないと拗ねるパン焼き機。健康ジュースを頻繁に作ると、喜ぶジューサー。何度もクッキーに手を伸ばすと怒るクッキージャー。身の回りの家電製品が、家族の健康を心配してくれるようになる。家電製品と心が通うようになる。そんな製品を作りたいと思った。

モノに心。日本の文化は広まるか

「満員電車の中って、周りの人の心の存在を否定して、人をモノ化するじゃないですか。駅員さんへの暴力とか、痴漢とか、具合が悪そうな人に席を譲らないとか、ベビーカーを許容しないとか。戦争も敵である人間をモノ化することで成り立っている。そういう意味で対象物から心が切り離されていくことは、恐い感じがするんです」。人が人ではなくモノ化した瞬間に、満員電車の中では思いやりがなくなる。人を殺すのが平気になる。ネット上で平気で誹謗中傷する。すべて人をモノとして見る結果。そうした流れに逆行したい。mononomeにはそうした思いも込めている。

 モノに目をつけて、その目が何かを語りかけるようになれば、モノとの関係が再構築される。心でつながるような気になる。そうした心の持ち方を取り戻すことで、人のモノ化の流れに抗えるのではないだろうか。そうなかのさんは考える。

 モノに心が宿る。神が宿る。八百万の神の存在を信じてきた日本人にとっては自然な発想なのかもしれないが、欧米人には今ひとつ理解されない考え方かもしれない。外国からの来客にmononomeを説明しても、反応は今一つだった。コンセプト動画の視聴回数も思ったほど伸びていない。

 しかし時代は、モノに心が宿るという感性を理解するようになるのではないか。出張で乗ったルフトハンザ航空の飛行機の中で手に取った機内誌は、上映映画として「AI(アーティフィシャルインテリジェンス、人工知能)からAE(アーティフィシャルエモーション、人工感情)」を特集していた。「ルフトハンザ、進んでるなって思いました」となかのさんは笑う。

データ解析、アプリに興味なし

 IoTの価値は、デバイスがネットにつながることだけではない。デバイスを通じて膨大なデータがネット上に集まり、解析できるようになることが、IoTの最大の価値だ。解析することでユーザーのニーズが事細かに理解できるようになり、サービス、製品の改良のヒントになる。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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