コラム

気球を撃墜され、経済制裁も──それでも中国が「逆ギレ」するしかない事情

2023年02月11日(土)18時58分
アメリカに飛来した中国の気球

Travis Huffstetler/Handout via REUTERS

<中国は「気象観測用」の気球だと主張しているが、目的を明確にすることも、運営する企業名を明らかにすることもできずにいる>

アメリカ上空をゆっくりと横断した中国の偵察気球が騒動になっている。気球は、サウスカロライナ州沖で撃墜され、FBI(米連邦捜査局)はそのスパイ気球に付けられていた機器の回収作業を行い、現在も検証が進められている。

■【動画】不穏な動きは「謎の気球」だけではない...中国が仕掛けるスパイ活動

現時点でわかっていることは、気球は中国の言うような「気象観測用」にしてはサイズが大きく、さらにある程度の操縦も可能だったという。また通信信号を傍受できるアンテナが取り付けられていて、通信データなどを収集していた。要は、スパイ目的でアメリカに送り込まれたものだったと考えていい。

中国側の発言などを見ていても説得力に欠ける。アメリカの領空に勝手に入ったのだから中国に過失があるのは明らかだが、逆ギレしている。目的を明確にできないからこそ、米政府の対応に驚くほど過敏に反応しているということなのだろう。

中国外務省の毛寧副報道局長は、2月7日の記者会見で、外国人記者から「この気球が中国の主張するように民間企業の活動であるのなら、その企業名を教えてほしい」と問われても社名を答えようとはしなかった。ただそれをすれば、疑惑も少しは晴れる可能性があると思うのだが......。

ほとんどの専門家がスパイの可能性を指摘

ちなみに、今回のスパイ気球は日本上空も飛行していた可能性が指摘されているので、日本も決して他人事ではない。

こうした顛末を受けて、米商務省は10日に、気球に関連する中国企業5社と1研究機関を貿易ブラックリストに追加する事態になった。気球が発覚してすぐに、アンソニー・ブリンケン国務長官が訪中を延期するなど、一見穏やかに見える気球の飛来が、思わぬ騒動に発展している。

今回、中国の気球の話が報じられた際に、直ちにこれがスパイ活動だろうと思った人は多かった。米メディアでも、コメントを求められたほとんどの専門家が、これはスパイの可能性が高いと口を揃えていた。

アメリカでは最近特に、中国によるスパイ活動に警戒心が高まっている。例えば、2022年に発覚した「海外110」。日本を含む世界53カ国に中国がかってに「警察」を設置し、スパイ活動の拠点となっていたとも批判され、いくつもの国から反発が出ていた。アメリカでは、米FBIはニューヨークのチャイナタウンにあった「海外110」を封鎖させたことが話題になっている。

今回の中国から飛行してきたスパイ気球をはじめとする中国の最近の不穏な動きについては、「スパイチャンネル~山田敏弘」でさらに解説しているので、ぜひご覧いただきたい。

プロフィール

山田敏弘

国際情勢アナリスト、国際ジャーナリスト、日本大学客員研究員。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版、MIT(マサチューセッツ工科大学)フルブライトフェローを経てフリーに。クーリエ・ジャポンITメディア・ビジネスオンライン、ニューズウィーク日本版、Forbes JAPANなどのサイトでコラム連載中。著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』、『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』、『CIAスパイ養成官』、『サイバー戦争の今』、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』、『死体格差 異状死17万人の衝撃』。最新刊は『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』。
twitter.com/yamadajour
YouTube「スパイチャンネル」
筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story