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その日、或る移民が思うアメリカ

中島恒久|アメリカ

アメリカ人に帰化するという事と日本国籍を喪失すると言う事 其の二

国籍喪失届 筆者撮影

アメリカでは大統領選挙の投票が無事に終わりました。ここから選挙人による投票が行われ、来年1月20日の大統領就任式へと繋がっていきます。まだ、マスコミでは色々な言説が飛び交ってはおりますが、サンフランシスコに関して言えば選挙前にはピリピリした空気に包まれていましたが、バイデン氏とハリス氏の勝利スピーチ後には人々がホッとしたのか緊張感が和らいだ気がします。

さて、前回はアメリカ市民への帰化までを書いたわけですが、今回はそれに伴う日本国籍の喪失について書いていきたいと思います。

まず、国籍の喪失について法務省の国籍Q&Aを見てみると次のように説明されています。

1  自己の志望による外国国籍の取得(国籍法第11条第1項)
 自分の意思で外国国籍を取得した場合,例えば,外国に帰化をした場合等には,自動的に日本国籍を失います。

2  外国の法令による外国国籍の選択(国籍法第11条第2項)
 日本と外国の国籍を有する方が,外国の法令に従って,その外国の国籍を選択した場合には,自動的に日本国籍を失います。

3  日本国籍の離脱(国籍法第13条)
 日本と外国の国籍を有する方が,法務大臣に対し,日本国籍を離脱する旨の届出をした場合には,日本国籍を失います(Q13参照)

4  日本国籍の不留保(国籍法第12条)
 外国で生まれた子で,出生によって日本国籍と同時に外国国籍も取得した子は,出生届とともに日本国籍を留保する旨を届け出なければ,その出生の時にさかのぼって日本国籍を失います(Q14参照)。
 なお,日本国籍の留保をしなかったことにより日本国籍を失った方については,20歳未満(注)であって日本に住所を有するときは,法務大臣へ届け出ることによって,日本国籍を再取得することができます(Q6参照)。

5  その他(国籍法第15条,第16条)

(注 )令和4年(2022年)4月1日から,「20歳未満」が「18歳未満」に変更されます。

私の場合は自分の意志でのアメリカ国籍の取得ですので1番になりますね。帰化宣誓式で宣誓しアメリカ国籍を取得した瞬間に、日本の国籍法上で私の日本国籍は自動的に喪失した、と言う事です。

ただ、自動的に喪失と言っても、日本側に何かしらの届け出をしなければその事実は誰にも伝わりません。という事で国籍喪失届の提出という手順が必要になってくる訳です。で、外国に住んで、そこに住んでいる訳なので当地にある日本の領事館に届け出るのが基本になるんだと思います。私が住んでいるサンフランシスコの総領事館のウェブの説明では下記の通りです。

ご本人の志望により、外国籍を取得(帰化) した方は、その国籍を取得した時点で、日本国籍を喪失したことになります。この事実を戸籍に反映させるために、国籍喪失届を在外公館、又は日本の区市町村役所に提出しなければなりません。当館に提出される場合、下記の必要書類を揃えて提出してください。

1. 必要書類
(1) 国籍喪失届書 2通
署名以外の部分はコピーしたもの又はパソコンにより入力・印刷したもので可。
(2) 帰化(外国籍(米国市民権)の取得)の事実を証明する文書:
(ア) 帰化証明書の原本を窓口に提示できる方は、窓口に提出していただきます。
係員が確認後、その場で返却いたします。郵送はしないでください。
(イ) 帰化証明書の原本が提示できない方は、宣誓供述書(AFFIDAVIT)2通 (原本1通、写し1通)(ダウンロードはここをクリック)
(3) 上記(2)の和訳文 1通:
(ア) 帰化証明書の和訳文(ダウンロードはここをクリック)
(イ) 宣誓供述書の和訳文(ダウンロードはここをクリック)
(4) 現在お持ちの日本国旅券(パスポート)

結構提出する書類が多いんですよね。パスポートでは無く帰化証明書を提出しなくてはいけないっていうのもポイントかなぁと思います。帰化した後、帰化証明書ってパスポートの申請以外に使う事が殆ど無いので仕舞い込んでしまったり、失くしてしまったりしがちな気がします。再発行には2020年11月現在で555ドル掛かりますので、失くさない様にしたいものです。

私は実際にサンフランシスコ総領事館に出向き手続きをしたのですが、実質10分くらいで完了。あっさりと、あっけないものでした。しかし、手続き自体はあっけなかったと言っても、この手続きをするまでに実は長い時間が掛かっていたのでした。

前回書いたのですが、私がアメリカ市民に帰化したのは2012年でした。そして、領事館にて国籍喪失手続きをしたのは2019年と実に7年も経ってからでした。何故、そんなに時間が掛かったのか?そして、何故、国籍喪失の手続きをする事に踏み切ったのか?を書いていきたいと思います。

まず、アメリカの市民権を取った瞬間に法律上日本の国籍を失うと言う事と国籍喪失届の提出が必要である事は知っていました。知らなかったのはいつまでに提出しなければいけないのか?という事でした。戸籍法の第百三条に規定がありました。

第百三条 国籍喪失の届出は、届出事件の本人、配偶者又は四親等内の親族が、国籍喪失の事実を知つた日から一箇月以内(届出をすべき者がその事実を知つた日に国外に在るときは、その日から三箇月以内)に、これをしなければならない。
○2 届書には、次の事項を記載し、国籍喪失を証すべき書面を添付しなければならない。
一 国籍喪失の原因及び年月日
二 新たに外国の国籍を取得したときは、その国籍

私の場合は国外にいるので国籍喪失から三か月以内に提出しなければいけなかったんですね。では、提出しなかった場合の罰則はどうなっているのでしょうか?同戸籍法には下記の記載があり、正当な理由が無い場合には5万円以下の過料という罰則があったんですね。

第百三十七条 正当な理由がなくて期間内にすべき届出又は申請をしない者は、五万円以下の過料に処する。

また、下記の通り、市町村長には催告の義務があり、その催告期間内に届け出しなかった場合には10万円以下の過料と言う事のようですね。

第四十四条 市町村長は、届出を怠つた者があることを知つたときは、相当の期間を定めて、届出義務者に対し、その期間内に届出をすべき旨を催告しなければならない。
○2 届出義務者が前項の期間内に届出をしなかつたときは、市町村長は、更に相当の期間を定めて、催告をすることができる。
○3 前二項の催告をすることができないとき、又は催告をしても届出がないときは、市町村長は、管轄法務局長等の許可を得て、戸籍の記載をすることができる。
○4 第二十四条第四項の規定は、裁判所その他の官庁、検察官又は吏員がその職務上届出を怠つた者があることを知つた場合にこれを準用する。

第百三十八条 市町村長が、第四十四条第一項又は第二項(これらの規定を第百十七条において準用する場合を含む。)の規定によつて、期間を定めて届出又は申請の催告をした場合に、正当な理由がなくてその期間内に届出又は申請をしない者は、十万円以下の過料に処する。

何故、そんなに時間が掛かったのか?

これについては期限を知らなかったという事と、領事館に出向くのが手間で先延ばしにしてしまっていたと言う事。そして、帰化後にはアメリカのパスポートで移動していたこともあり不便が無かったので、恥ずかしながら国籍喪失の手続きを放置してしまっていた、という事になります。

何故、国籍喪失の手続きをする事に踏み切ったのか?

それは結婚が理由でした。2019年に日本人女性の方と結婚をしたのですが、アメリカ国内での結婚の手続きをしました。その後、日本にも婚姻届けを出そうとした時に私の戸籍が残っているとおかしな事になると思ったんですね。外国人として彼女の戸籍に記載されるアメリカ人の私と、戸籍が残っている日本人としての私。同じ人間なのにシステム上では二人の別の人間として登録されることになるのが気持ち悪いと感じたのです。という事で、期限を大きく過ぎてからの国籍喪失手続きにはなってしまいましたが、国籍を喪失した2012年にまで遡って無事に私の戸籍は削除されました。

IMG-1903.jpg

余談ですが私達夫婦はお互い元々の名字を変えずに別姓で暮らしています。アメリカは法的に別姓が可能ですが、日本は夫婦別姓を認めていません。しかし、日本人と外国人の結婚であれば日本の戸籍上も夫婦別姓に出来てしまうというのが、少し不思議ではあります。

遅延に対して過料は課せられたのか?

現時点で過料は課せられていません。私のケースでは市町村長からの催告は出ていないので、シンプルに届け出が遅れたことに正当な理由があったかどうか、が問われるのでしょう。前述した通り「先延ばししてしまい、結果放置してしまった」というのが正当な理由と認められるのかどうか、はわかりません。実際のところ多くの人が期限内に喪失届を出している訳でもないでしょうから、明確な悪意が認められる場合でなければ過料は課せられないのでは無いかな?と考えています。もし、今後何かアクションがあればアップデートしたいと思います。

今回のまとめ

アメリカ市民に帰化したものの国籍喪失届は出していないという人もいると思います。法律上の喪失と行政上の喪失がリンクしていないという事で、国籍喪失という少しネガティブな気持ちのする手続きの為に領事館や役所まで出向かなくてはいけないというのは正直色々な意味で大変でした。私の場合は結婚という大きなイベントがあったので重い腰を上げる事が出来ましたが、そうでなければ更に先延ばししていたかもしれません。日本が他国籍を取得した日本人の国籍喪失を徹底したいのであれば手続きの簡略化は検討すべきだとは思います。

さて、この問題を考える時に必ずセットになってくるが「二重国籍」です。将来的に日本が二重国籍を認めるか否かについては、在外日本人のみならず日本在住の日本人も関心があるのではないでしょうか?二重国籍を認めると言う事は、他国籍を取った日本人の日本国籍の維持を認め、且つ日本の国籍を取得した外国人の元々の国籍の維持を認めると言う事になるのであろうと考えます。果たして日本がその決断をするのか?興味を持って見ていきたいテーマの一つです。

さて、次回はコロナ禍において日本に入国するためにビザが必要になった話を書きたいと思います。

 

Profile

著者プロフィール
中島恒久

海外経験ゼロからアメリカ永住権の抽選に応募して一発当選。2004年、25歳の時にアメリカ移住。ジャズベーシストとしての活動の傍ら、寿司屋の下働き、起業、スタートアップ企業、刃物研ぎなどの仕事を転々とした結果ホームレスになりかける。現在は日系IT企業の米国法人にてCOO。サンフランシスコ在住の日系アメリカ人の一世。

Twitter: @carlostsune

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