World Voice

ベネルクスから潮流に抗って

岸本聡子|ベルギー

クリスマス家族行事: バスルーム(トイレ)の使用はおひとり様のみ

クレジット:Foxys_forest_manufacture

家族・友達とクリスマスや新年を迎えるこの時期、冗談みたいな本気のベルギー式ルールが発表された。レストラン、バー、カフェはすでに完全に閉鎖している。忘年会的なことはもちろんNGということを想像したうえで、これは最後の社交的な場である家庭に及ぶルールだ。

同じ屋根の下に住む人以外に、家に招いてよいのは一人のみ、というかなり厳しいルールが数週間前に発表され、すでに適応されている。しかも唯一接触していい一人(knuffelcontact ハグしていい人)は、期間を通じて同じ人物でなくてはいけない。うちの場合、長男はすでに家を出ているので、長男を迎えればそれでおしまいだ。一人住まいの人に限っては、自分以外に2人を招待してもよい。

追加されたトイレルールを紹介しよう。自宅の庭(野外)に数人の家族や友人を招いてクリスマスや新年を祝うのはOKとなった。しかしその場合は、玄関から入ってはダメで、庭と道をつなぐ出入口がある場合のみ、飲み物を取りに家に入ったりしてもいけない。家のバスルーム(トイレ)を使っていいのは knuffelcontact一人のみで、つまりはそれ以外の人は長い滞在や飲食はダメということだ。そもそも庭のない都市部の家には適応されない。

ここまで細かなルールがまことしやかに施行されるのは、滑稽に思える。それでも10年来、ベルギーの一般的な家族づきあい文化の様子を、フランダース地方小都市ルーベンから観察してきたから少し理解できる。外国人が多く、多様で混沌のコスモポリタン首都ブリュッセルにいたときは、気づかなかったことも多い。

私が、ルーベンに来てびっくりしたことの一つは、多くのベルギー人ファミリーの週末の予定は、隔週くらいのレベルで家族系のイベントで埋まっていることである。赤ちゃんからおじいちゃん、おばあちゃんに至る毎年の誕生日会はもちろんのこと、結婚〇〇周年や、カソリックのこどものコミュニオン(初聖体拝領)。多くのベルギー人は、複数のこどものゴットマザー・ゴットファザー(名付け親)になっているので、その都度、拡大家族は集まり、飲食をともにする。

年から年中集まる家族行事の最高峰が、クリスマスイブ(24日)、ファーストクリスマスデー(25日)、セカンドクリスマスデー(26日)というわけだ。だれと、どこで、どのようにこれらの日々を迎えるかの調整や準備は、大仕事であり、頭痛や胃痛の原因でもあり、楽しみでもある。幸せ家族の気合と見栄を最大限に表現する、膨大なプレゼントの数とシャンペンの嵐。。その経済効果も相当なものである。

今年は、この家族系最大級イベントがほぼなしというわけで、ベルギー人にとっての精神的なインパクトは大きい。だから政府は、感染がなかなか収束しない厳しい状況の中で、人々の気持ちにできるだけ配慮した苦渋のトイレおひとり様ルールを打ち出したのだろう。コロナ感染拡大の危機感や緊張感もひしひしと伝わる。

私たちのような外国人(家族)は、もともとベルギー人家族系行事の蚊帳の外なので、例年も今年も静かなものだ。ここ数年は、離婚してシングルになった近所の数人の友達と「レフトオーバー(残り者)」のクリスマスイブの夕食をするのが恒例になっている。離婚すると相手の家族との付き合いがなくなるので、クリスマスの忙しさが半減する。離婚で家族の形が変わり、型にはまった家族像はもうたくさんと、思っている人も多い。皮肉やユーモアを交えて、あえてクリスマスらしくないものを持ち寄り、家族社交度外視で多いに飲む楽しい会だ。それさえも今年はできない。

クリスマス時期の警戒がことさら大きいのは、ロックダウン下にも関わらず、数十人、時には100人を超える商業的なパーティーが何度も摘発されている事情がある。プロの音響設備、飲み物を提供するバー、おまけに参加者のためのシャトルバスまで仕立てたパーティーもあった。参加者は250ユーロ、主催者は750ユーロの罰金が課せられた。

第二波の感染拡大で再びルールが厳しくなり、夜間外出禁止も続いている。屋外でも4人以上のグループのスポーツ活動はNGだ。少なくとも、学校や保育園を閉鎖させないために、市民的自由や経済活動の規制に協力する人が大半である。遊びたい盛りの若い人たちは特にストレスがたまっているのはわかる。しかし、大規模なナイトクラブパーティーはまずい。

商業的な違法パーティーを効果的に見つけるために、警察がドローンを飛ばすというアイディアさえ浮上した。ドローンが家族の集まりさえも監視するのではと、プライバシーの侵害の懸念が当然上がった。コロナ禍で前例ができれば、時の政府にドローンによる監視を許すことになると、監視社会を警戒する根源的な議論にも発展している。ドローンの大規模な利用は見送られ、商業的なパーティーの罰金額が高められた(参加者は750ユーロ、主催者は4000ユーロ)。

こんな緊張感の中で暮らしている中、日本の首相が8人で会食というニュースにのけぞった。しかも国民には5人以上での飲食に注意を促した直後に。70歳以上の高齢者(おじいさん)ばかりだし。日本の人の命と生活にもっとも責任ある立場の人が、お友達と高級ステーキ食べてる場合じゃないよ、ガースー。

 

Profile

著者プロフィール
岸本聡子

1974年生まれ、東京出身。2001年にオランダに移住、2003年よりアムステルダムの政策研究NGO トランスナショナル研究所(TNI)の研究員。現在ベルギー在住。環境と地域と人を守る公共政策のリサーチと社会運動の支援が仕事。長年のテーマは水道、公共サービス、人権、脱民営化。最近のテーマは経済の民主化、ミュニシパリズム、ジャストトランジッションなど。著書に『水道、再び公営化!欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』(2020年集英社新書)。趣味はジョギング、料理、空手の稽古(沖縄剛柔流)。

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