コラム

日本は喫煙に関するよりマシな選択肢を得ようとする欧州諸国を見習うべきだ

2023年12月11日(月)18時26分
北欧

ハームリダクションの考え方とは...... (画像はイメージ)Ranta Images-shutterstock

<たばこ税を含む防衛増税の議論が大詰めを迎えようとしているが、他の先進国における喫煙を巡る状況とハームリダクションの考え方を紹介していきたい......>

自民党税制調査会において、たばこ税を含む防衛増税の議論が大詰めを迎えようとしている。次回のたばこ税増税は加熱式たばこの順番となるものと見なされているが、果たしてそのような課税の在り方は妥当性があるものなのだろうか。

そこで、他の先進国における喫煙を巡る状況とハームリダクションの考え方を紹介していきたい。


スウェーデンの喫煙率は5%台と非常に低い理由

まず、驚くべきことに、スウェーデンの喫煙率は5%台と非常に低い水準となっている。これは極めて画期的な状態であり、人々の公衆衛生面から望ましい状況となっていると言えるだろう。

しかし、このことはスウェーデンから「ニコチン」を摂取する人がいなくなったことを意味しない。スウェーデンの喫煙者の激減は「スヌース」という無煙たばこが普及した面が大きい。

スヌースは口腔内の粘膜からニコチンを摂取するタイプのもので、副流煙などによって周囲に煙による被害をもたらすことはない。そのため、明らかに社会的な害は低減されていると言えるだろう。

一部にはスヌースによる健康被害を強調する向きもあるが、完璧主義では物事は遅々として解決に向かうことはない。たとえ完全なものではなくとも、よりマシな選択肢を採用していくことが重要だ。

少しでも状況が改善される選択肢を選ぶ重要性

たばこに限らず、社会的に有害であるものの、既に多くの人々に利用されているものを別のより害が低いものに代替していく行為をハームリダクションという。このような考え方は100対0の完璧主義者からは嫌われる。特に医療に関しては医師の多くは賛同しようとしない。彼らはその立場上、有害であってもよりマシな選択肢を採用すべきだとは口にしにくい。

しかし、人間は機械ではないのでスイッチのON・OFFのように突然行動を変えることはほぼ不可能である。依存は一朝一夕で治療されることはない。そのため、少しでも状況が改善される選択肢を選ぶことは当然だ。

スヌースのようなかぎたばこは、かつてルイ13世が「鼻から煙を出す行為は下品だ」と考えて禁止したことから生まれた選択肢とされている。ルイ13世は個人的な好みでそのような命令をしたと思うが、周囲に害を与えないよりマシな選択肢が生まれたことには感謝したい。

一方、電子たばこを違法だとする向きもあるが、電子たばこ自体は紙巻たばこよりも有害性が低いとされ、イギリス保健省では禁煙補助のための医療機器として利用されている。紙巻たばこから有害物質の含有量が低く調節された電子たばこに移行することは望ましいことだ。正しい利用方法で電子たばこを普及することはハームリダクションにかなった考え方である。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国大統領が戒厳令、国会は「無効」と判断 軍も介入

ビジネス

米求人件数、10月は予想上回る増加 解雇は減少

ワールド

シリア北東部で新たな戦線、米支援クルド勢力と政府軍

ワールド

バイデン氏、アンゴラ大統領と会談 アフリカへの長期
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計画──ロシア情報機関
  • 4
    スーパー台風が連続襲来...フィリピンの苦難、被災者…
  • 5
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 6
    なぜジョージアでは「努力」という言葉がないのか?.…
  • 7
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    「92種類のミネラル含む」シーモス TikTokで健康効…
  • 10
    赤字は3億ドルに...サンフランシスコから名物「ケー…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story