コラム

日本は喫煙に関するよりマシな選択肢を得ようとする欧州諸国を見習うべきだ

2023年12月11日(月)18時26分

ただし、電子たばこが野放図に普及したアメリカではフレーバー付きの電子たばこの若者への浸透が問題視されている。その原因は中国からの広告基準を守らない使い捨て電子たばこの輸入増、そして麻薬成分を混ぜた違法な商品の蔓延だ。明らかに違法な広告や身体に極めて悪影響を及ぼす成分がリキッドに混ざっている場合は禁止されることは当然であり、このこと自体でハームリダクションを否定する論調が拡がることは残念だ。


米国のような状況では、たとえ全ての電子たばこを禁止しても、それは麻薬を摂取するタイプの商品へのエスカレートや紙巻たばこへの回帰を生み出すだけだ。したがって、無理筋な規制強化ではなく、身体に極めて有害な違法な製品を徹底的に取り締るしかないだろう。若者の好奇心を止めることは常に難しい社会課題であり、より良い選択肢を得るための規制の在り方も考えさせられるとともに、そのための事業者の協力も不可欠となる。

日本政府の遅々とした対応はナンセンス

さて、日本では電子たばこが医療機器として扱われているため、紙巻たばこに対する主な代替的な選択肢は加熱式たばことなっている。実際、紙巻たばこユーザーは減少しているのに対し、加熱式たばこユーザーは急速に増加している。(それに伴って喫煙者自体も減少している。)

日本では加熱式たばこが紙巻たばこよりも健康被害を低減するという最終的な結論は必ずしも出ていない。しかし、日本政府の遅々とした対応は、現状を改善するために、より害が少ない選択肢を選ぶというハームリダクションの考え方からはナンセンスだ。鉄橋を叩いて渡らないようなものだ。米国や英国の規制当局からは加熱式たばこは紙巻きたばこよりも有害性が低いとする報告書も出ており、何十年後になるか分からない日本の調査結果をあえて待つ必要はない。

また、消防庁が公表した報告によると、加熱式たばこは紙巻たばこと比べて、火災の原因になる可能性が低いとされている。直接的に健康リスクを低減させる話ではないものの、喫煙に伴う社会的な有害性を明確に低下させることは間違いない。

たばこに関する議論はハームリダクション政策導入の試金石

そのため、冒頭の防衛増税に伴うたばこ増税の議論はハームリダクションの考え方を適切に取り入れたものとしていくべきだ。そのため、現状のように加熱式たばこに安易に課税する議論は、むしろ社会的な有害な議論となる可能性がある。

日本においてもハームリダクションの考え方を理解し、加熱式タバコに対する安易な増税に反対する署名なども行われている。(経済学者による加熱式たばこ増税反対署名請願の取り組みはユニークで面白い。)

果たして、日本が欧米諸国を見習った現実的な選択肢を採用していく発想に立った議論を行うことができるのだろうか。たばこに関する議論は他分野におけるハームリダクション政策導入の試金石であり、今後も注目に値する。

ニューズウィーク日本版 トランプの大誤算
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年4月14号(4月7日発売)は「トランプの大誤算」特集。国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない。

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

「米兵救出は復活祭の奇跡」、トランプ氏の宗教発言に

ワールド

UAEアルミ生産大手、イラン攻撃受けた精錬所は完全

ワールド

米プラネット・ラボ、イラン周辺の画像公開を無期限停

ワールド

アングル:3月米雇用統計、FRBの金利据え置きシナ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「攻撃的知能」を解剖する
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 6
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 7
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 10
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 7
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 8
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 9
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 10
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story