コラム

次期米国大統領の自由を制約する上院議員選挙

2020年10月29日(木)12時45分

大統領選挙と同時に行われる上院議員選挙の勝敗は極めて重要だ...... REUTERS/Al Drago

<2020年以後の米国政治を占う上で、大統領選挙と同時に行われる上院議員選挙の勝敗は極めて重要だ。上院は政権高官人事などに強い権限を持っており、上院の多数は今後の政局運営に大きな影響を与えることとなる...... >

2020年トランプvsバイデンの大統領選挙ばかりが注目されている状況だが、2020年以後の米国政治を占う上では大統領選挙と同時に行われる上院議員選挙の勝敗は極めて重要だ。
(連邦下院議員選挙は既に民主党過半数維持の可能性が高いと想定されている。)

連邦上院議員選挙は6年任期で3分の1が改選されることになり、今回の改選は2014年に共和党が中間選挙で圧勝した年の改選年となる。そのため、共和党は23議席、民主党は12議席の改選となっており、共和党は議席を減らすことはあっても伸ばすことはほぼあり得ない前提である。

現有議席は共和党53議席、民主党47議席である。したがって、共和党は大統領を民主党に奪われると差し引き3議席失うことで事実上過半数を失うことになる。

もちろん、民主党上院議員及び候補者にも中道派議員が存在するため、仮に民主党が上院過半数を確保したとしても直ちに急激な左派転回するわけではない。しかし、共和党上院多数という歯止めが失われた場合、連邦議会に1つの重しが失われることは確かだ。

その選挙結果は2020年以後の米国政局や政策決定の方向性を基礎付けることになるだろう。

ネットからの豊富な個人献金で、民主党候補者が優勢に

実際、共和党現職上院議員らの再選に向けた道のりはかなり厳しい。民主党候補者が相対的に優勢を確立している理由は豊富な個人献金のネットからの流入だ。民主党のネット献金プラットフォームから流入する左派系の小口献金は爆増しており、民主党新人候補者らが共和党現職議員を資金的に上回る状況となっている。資金力はTV広告などの選挙運動量に直結し、米国の選挙では勝敗を左右する要素となる。

民主党が失う可能性が高い州はアラバマ州1州しか存在していない。同州は元々共和党が強い州であるが、前回の補欠選挙で共和党側候補者がスキャンダル塗れの人物であったため、民主党が保有してきた議席である。そのため、通常の選挙が行われた場合、共和党はアラバマ州の議席を取り戻す公算は極めて高い。

一方、共和党が保有している議席のうち、民主党候補者が優勢または互角の戦いを演じている選挙戦は9議席分も存在している。

特に、アリゾナ州とコロラド州の議席は民主党候補者が共和党現職を破る可能性が高まっている。

アリゾナ州は中心地であるマリコパ群の人口増加によって急速にリベラル化が進んでおり、またトランプ大統領と激しく対立した故・マケイン上院議員の地盤でもある。共和党は女性のマクサリー上院議員が議席を有しているものの、民主党側も保守色が強い元軍人で宇宙飛行士のケリー氏が共和党支持層も取り込みつつ有利な選挙戦を進めている。

コロラド州は現職共和党のガードナー上院議員が有する議席は今回の改選で最も脆弱な議席だ。急速に左旋回する同州の直近の選挙情勢は民主党に有利に推移しており、ヒッケンルーパー前州知事は最強の対戦相手と言える。同州において保守派のバレット最高裁判事承認に関するガードナーの賛成投票は極めて不利に働くことになるだろう。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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