コラム

民主党にとって最悪のシナリオになりつつある予備選

2020年02月27日(木)20時00分

経済が上向きになり、失業率が下がってきたのは、ブッシュ大統領から最悪の経済状況を引き継いだオバマ政権の時代だ。だが、たとえ種をまいたのがオバマ政権だったとしても、現在のアメリカ国民が信じるのは「トランプ政権になってからは好景気で失業率も低い」という自分の肌感覚だ。新型コロナウィルスの影響で最近になって株価が暴落したが、それまで米経済は順調だった。ゆえに、リベラルを自称する人のなかにも、「この好景気を社会主義者によって壊されたくない」と思っている人はかなりいる。

サンダースは「好景気で得をしているのはビリオネアだけ」と繰り返すが、「この良い経済状態を変えたくない」と感じているのは職についている中産階級であり、一般庶民なのだ。2月上旬のエコノミスト/YouGovの世論調査でも、「ドナルド・トランプが再選されたらアメリカ経済は今より良くなるか悪くなるか?」という質問に対して、「良くなる」と答えたのは34%で、「現在と変わらない」と答えた15%と合わせるとほぼ半数になり、「悪くなる」と答えた38%より多い。ちなみに、「民主党の大統領が選ばれたら」という同じ質問に対して「良くなる」と答えたのは31%しかいなかった。

サンダースやウォーレンが唱える「大学無料」と「学費ローン徳政令」は若者に人気だが、それより上の世代にはさほど人気はない。批判しているのも金持ちだけではない。何年も何十年も苦労して学費や学費ローンを払い終えた庶民たちは、「私は生活を切り詰めてようやく払い終えたというのに、今度はタダ乗りする人たちのために税金を払わされるのか? ちゃんと払わなかった者が得をして、真面目な者が損をする」と怒っている。その中には、50代後半や60代になってようやく高収入を得られるようになり、これから楽をしようと楽しみにしている人もいる。苦労してたどり着いた地位であり、決してビリオネアでもなく、思想的にはリベラルなのに、サンダースやその支持者から「低所得者を食い物にする金持ち」と批判されることに、彼らは反感を覚えている。

このようなことから、民主党内にも「サンダースが大統領になるくらいなら、あと4年トランプでがまんしたほうがいい」と語る人が少なくない。

ウォーレンは自分とは意見が異なる民主党議員とも協働できるタイプだが、サンダースは自分に賛成しない者にまったく妥協しない。また、彼の熱心な支持者らが民主党首脳部や中道の議員らを「現状維持のエスタブリッシュメント」と呼んで攻撃しているのに、サンダースはそれをたしなめようともしない。サンダース支持者は、ソーシャルメディアでバイデン、ブティジェッジ、ウォーレン、そして(脱落した)アンドリュー・ヤングすら攻撃しており、それがサンダースへの不信感に繋がっている。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story