コラム

「誰かに認められたい」10代の少女たちの危うい心理

2016年10月04日(火)18時15分

 離婚した両親から無視されて寂しさを抱えていたエヴィは、親友の兄の気をひこうとするが、彼だけでなく親友すら失ってしまう。孤立した14歳の少女は、公園で、誰の目も気にせず、自由奔放にふるまう少女たちを目にして心惹かれる。エヴィが特に魅了されたのは、リーダー格で19歳のスザンヌだった。

 エヴィは、自分をのけ者にする学校の同級生よりずっとクールな年上の少女に自分のことを覚えてもらい、特別扱いされることに誇りや喜びを感じる。そして、スザンヌに誘われるまま、ヒッピーの少女たちが属するコミューンに出入りする。

 自由と愛をモットーにするその集団のリーダーは、ラッセルという大人の男性だった。少女たちよりずっと年上のラッセルが、メンバーの少女たち全員と性的な関係を持っているらしいことに気づいて、エヴィは違和感を持つ。けれども、スザンヌがラッセルを崇拝しているので、彼女に認められたいばかりに、ラッセルの数々の要求に従うようになる。

 筆者と同年代の読者は、ここまで読んだだけでチャールズ・マンソンとシャロン・テート殺人事件を連想するはずだ。

【参考記事】大人になっても続くいじめの後遺症

 事件は、ヒッピー・ムーブメントのさなかに起こった。1967年の夏、サンフランシスコのヘイトアシュベリー地区にヒッピーファッションに身を包んだ10万人の若者が集まった。ベトナム反戦運動や反政府活動と結びついたこのムーブメントは、自由と愛をモットーにしたもので、有名なミュージシャンや詩人も参加し、「Summer of Love」と呼ばれた。

 だが、ヒッピーカルチャーは、ポジティブなことばかりではなかった。LSDなどの幻覚剤が乱用され、女性が見ず知らずの男性にタダで性交渉を提供することが、あたかも高尚な「愛の自由」の表現のように扱われた。

 チャールズ・マンソンのカルト集団も、Summer of Loveの熱気の中で生まれた。獄中でデール・カーネギーの『人を動かす』やサイエントロジーの洗脳方法を学んだマンソンは、出獄すると、そのテクニックを使って心理的に脆弱な少女たちを狙ってリクルートした。

 マンソンをビーチボーイズのデニス・ウィルソンに繋げたのも、信者の少女たちだった。ウィルソンがヒッチハイクをしていた少女2人をひろったところ、彼女たちに加えて17人の少女らが家に住み込んでしまい、彼女たちが「私たちのグル」としてマンソンを紹介したのだ。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平の進展期待 ゼレンスキー

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア停戦を評価 相互信頼再構

ワールド

米ロ首脳が電話会談、両氏は一時停戦案支持せずとロ高

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story