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出版不況でもたくましいインディーズ出版社の生き残り術
1)マニアが愛するニッチな本を作る
シカゴ・レビュー・プレスが刊行するのは、南極マラソンなど世界の究極のレースに関するノンフィクション『The Coolest Race On The Earth』や、驚愕の女性遍歴を持つハードロック・ドラマー、カーマイン・アピスの回想録『Stick It!』などに代表される、ポップカルチャー、音楽、伝記、回想録の分野だ。しかも、大手出版社が手を出すのをためらうようなリスキーなものが多い。それを、シェリーは「ニッチビジネス」と呼ぶ。つまり、競合が少なく、競争優位性が高い隙間分野だ。
リスキーな本を成功させるコツは、本の選択と、こだわりの編集だ。無数の読者を想定せず、少数の情熱的な読者に愛される本を出すことを目指すのも重要だ。シカゴ・レビュー・プレスには、それぞれの得意な分野で出版する本を厳選する担当編集者がいる。つまり、本を選ぶ編集者がある種のマニアなのだ。
2)寿命の長い本を出版する
大手出版社は、何百万冊も売れるベストセラーをめざす。だから、ベストセラーにならない本はすぐに見捨てられ、本の寿命が短い。だが、シカゴ・レビュー・プレスは、少しずつでも長年売れるタイトルを選ぶ。つまり、ビジネス用語でいう「ロングテール」だ。たとえば、70年代に有名だった兄妹ポップス・デュオの妹、カレン・カーペンターの人生を描いた『Little Girl Blue』などがそうだ。カレンは摂食障害の末に83年に亡くなったが、2011年に出版されたこの伝記は、今でも静かに売れ続けている。
3)小規模の身軽さを武器にする
シカゴ・レビュー・プレスの場合には、各タイトルで数千冊売れれば元は取れるという。大手出版社では、抱える社員が多く、宣伝費などのコストも膨大だ。だから、何百万冊も売れるベストセラーを次々に産み出すプレッシャーがあり、リスクがとれない。インディーズは、小規模だからこそ、大手がためらう面白いタイトルを手がけられる。
そのリスクは、たまに大きく報われる。たとえば、『Grandma Gatewood's Walk』という本だ。アメリカ東部アパラチア山脈にそって14州、3500キロメートルを横断するアパラチアン・トレイルは、今でも難関だが、20世紀前半はさらに難関で危険だった。1955年に、そのアパラチア山脈を単独で歩ききった67歳の女性がいる。「ゲートウッドおばあちゃん」と呼ばれて全米で有名になった彼女のおかげで、アパラチアン・トレイルは大幅に改善され、利用者が増えた。アパラチアン・トレイルを救ったとはいえ、ゲートウッドは「普通のおばあちゃん」だ。それなのに、彼女の伝記が、アウトドア出版の賞を受賞し、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストにも入るほどヒットしたのだ。
4)ディストリビューター(取次業者)でもある
小規模のインディーズ出版社にとって、書店への販売流通の確保は大きな難問となる。良い作品を作っても、書店に置いてもらえなければ読者には届かない。そこで、シカゴ・レビュー・プレスは、1987年にインディペンデント・パブリッシング・グループ(IPG)という取次業者を買い取り、系列会社にした。IPGは、シカゴ・レビュー・プレスの作品だけでなく、ほかのインディーズ出版社のマーケティングやセールス、ネット戦略も取り扱っている。
このように、シカゴ・レビュー・プレスは、好きな作品を作る自由を保ちつつ、経済的な安定も確保している。インディーズといっても大手並みの存在感を持っている。
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