コラム

輝く日本海に新時代の幕開けを予感して

2021年10月04日(月)15時00分

◆国石が輝く日本海でこの国の再スタートを願う

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日本海を望む展望台

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展望台からの光景。太平洋から列島の真ん中を横断して日本海まで歩いてきた

さあ、いよいよ日本海へ。駅前通りと海岸沿いを通る国道8号の交差点に、海を見下ろす展望台があった。何はともあれまずはそこから念願の日本海を拝むことにした。「日本海」というワードは、やはり多くの旅人のロマンをくすぐるようだ。市街を歩いている時は観光客らしき人には全然会わなかったのに、ここには先客が数組いた。僕は「ここまで歩いてきたんですよ!」と言いふらしたい気持ちを抑えて、静かに海を眺めた。テトラポット(消波ブロック)で抑えられた大海原のエネルギーと、心の中に抑えた感動のマグマがシンクロする。

ゴールのヒスイ海岸までは、もう一息。海沿いの旧街道をあと数キロ歩く。ヒスイ海岸は、先述したように、川に削られたヒスイの原石が、海に出て再び流れ着く場所。川の流れと海の波に磨かれた石が、自然の宝石となって海底から浜にかけて転がっている。もちろんヒスイは色とりどりの石のごく一部で、めったに見つかるものではない。波打ち際には、夢を拾い上げるかのようにヒスイを探す家族連れや観光客が集っていた。

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色とりどりの石で覆われたヒスイ海岸の海底


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波打ち際に川と海で磨かれた石が流れ着く

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海岸は夢を探す人々で賑わっていた

ここは、一攫千金のチャンスがないとは言えない、ロマンに満ちた場所だ。僕はこの旅で、空き家と廃墟だらけの人通りがまばらな地方の現状を見るにつけ、この国の没落ぶりを嘆いてきた。しかし、それは、新たな時代の幕開けの前兆でもある。旅のスタート時点では、1964年の東京オリンピックが高度経済成長時代の号砲となったように、二度目の東京オリンピックが「ポスト戦後」の新たな幕開けになると期待していた。しかし、開会式に至るまでのたび重なる不祥事や質の低い開会式の演出を見るにつけ、ここに来て戦後の日本の負の部分、1964年からの57年間にたまった澱(おり)が一気に噴出したように僕の目には映った。新時代の幕開けの前の焼け野原に向かう時代。今はまだそんな、リセットの時期なのかもしれない。

コロナの流行という不運も大きい。日本だけでなく、世界全体が、「ポストコロナ」の節目も迎えつつある。それを考えると、新時代の幕開けは、そう遠い将来のことではないだろう。ヒスイ海岸というロマンを秘めた地をゴールに選んだのは、新時代への希望を抱ける風景で旅を締めくくりたかったからだ。ここでこの連載はいったん区切りとなるが、僕の「徒歩の旅」はまだまだ続く。近い将来、新たなゴールを目指して再開したい。目の前の海の先には、佐渡の島影が見えていた。

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夕日に輝くヒスイ海岸

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旅の最後に、新時代の幕開けを予感させる光景が広がった

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今回歩いたコース:YAMAP活動日記

今回の行程: 頸城大野駅 → ヒスイ海岸(https://yamap.com/activities/13002406)※リンク先に沿道で撮影した全写真・詳細地図あり
・歩行距離=11.4km
・歩行時間=7時間37分
・上り/下り=183m/232m

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

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