コラム

灼熱の甲府盆地で「地名の由来」を考察する

2019年08月23日(金)18時00分

カラスの案山子もぐったり。真夏のぶどう畑にて=山梨県山梨市  撮影:内村コースケ

第11回 塩山駅 → 甲斐善光寺(甲府市)
<平成が終わった2019年から東京オリンピックが開催される2020年にかけて、日本は変革期を迎える。令和の新時代を迎えた今、名実共に「戦後」が終わり、2020年代は新しい世代が新しい日本を築いていくことになるだろう。その新時代の幕開けを、飾らない日常を歩きながら体感したい。そう思って、東京の晴海埠頭から、新潟県糸魚川市の日本海を目指して歩き始めた>

◆塩不足に苦しんだ甲斐の国に「塩の山」?

map1.jpg

「日本横断徒歩の旅」全行程の想定最短ルート :Googleマップより

map2.jpg

これまでの10回で歩いてきたルート:YAMAP「活動データ」より

勝沼のブドウ郷を歩いた前回の終盤、塩山駅の後方に小高い山が見えた。甲府盆地の縁に、背景の山々から独立してポツンと佇む山。それが「塩山」の地名の元になった「塩ノ山」だとはっきり分かったのは、後で地図を見直してからだ。甲府盆地を囲む1,000m級の山々と比べて明らかに控え目な低山ながら、進行方向にずっとそのちょこんとした三角形の姿が見え隠れしていたので、どうにも気になる存在だった。だから、今回塩山駅から旅を再開して、まっすぐ塩ノ山に向かった。

10_127.jpg

前回の旅の終盤、塩山駅の背後に見えた「塩ノ山」

JR中央本線塩山駅周辺の市街地は、2005(平成17)年に旧勝沼町と大和村と合併して甲州市になるまでの旧塩山市のエリアだ。「塩山」の地名は、この塩ノ山から来ているが、字面からはいかにも岩塩が採れそうである。しかし、実際に目にする夏の塩ノ山には青々と木が生い茂り、塩の気配は感じられない。そもそも、『伯方の塩』なら有名だが、『甲州の塩』なんて聞いたことがない。

「塩ノ山」の名前の由来には諸説ある。ストレートに<かつては岩塩が採れたから>という説もある。しかし、ある有名なことわざの由来を知れば、ますます眉唾ものだ。武田信玄が治めていた時代、ここ甲斐の国は塩不足に陥った。それを知った信玄のライバル、上杉謙信は、部下に命じて甲斐に塩を送らせた。この故事が、「敵に塩を送る(敵の弱みにつけこまず、逆にその苦境から救う)」ということわざの元になっている。塩ノ山が文字通り塩の山だったのなら、この塩不足のエピソードとはなんともチグハグな歴史である。

有力なのは、『古今和歌集』の<志ほの山 差出の磯に住む千鳥 君が御代をば 八千代とぞなく>という歌の「志ほ(しお)の山」が転じて「塩ノ山」になったという説だ。「差出の磯」とは、隣の山梨市にある笛吹川沿いの景勝地で、今も変わらずその名で呼ばれている。では、「志ほの山」という地名がどういう意味を含んでいるかというと、元は「四方の山」で、「四方どの方向からもよく見える山だから」という説がある。前回、塩山を目指して歩いていて、常に塩ノ山の存在が気になったことを振り返れば、納得のいく説である。ちなみに、この三角形の塩ノ山、ピラミッド伝説があるパワースポットだということも付け加えておこう。

190811_020.jpg

今回到達した塩ノ山山頂

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、代替関税率を10%から15%に引

ビジネス

エヌビディアやソフト大手の決算、AI相場の次の試金

ワールド

焦点:「氷雪経済」の成功例追え、中国がサービス投資

ワールド

焦点:米中間選挙へ、民主党がキリスト教保守層にもア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 2
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官が掲げる「新しいスパイの戦い方」
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 5
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 6
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 7
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 8
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 5
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 6
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 7
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 8
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 9
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 10
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story