若い世田谷にも押し寄せる高齢化の波
◆調布の町のコントラスト
京王線の調布市の最初の駅が仙川。今回は通過しなかったが、駅前は近年再開発が進んでいて、オシャレスポットになっている。僕も仙川のオシャレなカフェで何度か、音楽部門や高偏差値で有名な桐朋学園ゆかりのハイソサエティな方のインタビューをしたことがある。
その次のつつじヶ丘には親戚宅があって、高校入学したての数ヶ月間、身を寄せていたことがある。その頃と比べて駅舎は近代的になっていたが、駅前商店街あたりの風景は当時とそう変わらない。甲州街道の北側の親戚宅周辺を訪ねてみたが、まだまだ分譲前の空き地が多かった当時と比べて住宅の密度は上がっているものの、新しくも古くもない中庸な住宅地というイメージはあまり変わっていなかった。
隣の柴崎駅周辺は面白かった。「調布の下町」といったところだろうか。八百屋と自転車が混ざった「自転車を売る八百屋(野菜を売る自転車屋)」といったほのぼのとした気分になる個人商店がまだ健在で、墨田区の向島あたりのイメージと重なる。駅を離れると1980年代後半から90年代前半的な、つつじヶ丘よりも少し古そうな住宅街となり、その先に忽然と超近代的なタワーマンションが現れた。その脇にある国領駅は2012年に地下化された洗練された駅舎で、昭和っぽい地上駅の柴崎とはかなりのコントラストがある。
京王線に沿って調布市内を歩いたのは今回が初めてだったが、駅によって町の雰囲気が異なり、戦後の日本の都市風景が小さく凝縮されたような面白さがあったのは意外だった。電車通勤だと、なかなか面や線で自分たちの街を捉えることができないけれど、ゆっくり歩いてみると都市のコントラストを鮮明に捉えることができる。調布市の中にもさまざまな顔があることを、案外地元の人も知らないのではないだろうか。
◆「2022年問題」で消えゆく都市農園
もう一つ、調布に入ってから目についたのは、「生産緑地」だ。要は住宅地の中にある畑なのだが、調布市に入ってから、あちこちに小さな大根畑などが現れた。一戸建てやマンションの間に埋もれるように畑が点々とする風景は、「都会」でも「田舎」でもない、ある種独特な前衛的な都市イメージすら漂う。
生産緑地とは、1991年に定められた生産緑地法に基づき、都市の農家と畑を残すために、固定資産税が農村部の一般農地と同様に極めて低く抑えられた土地だ。税制面で優遇される代わりに30年間の営農義務が課せられている。今、その多くが2022年に期限切れとなることが不動産業界で話題になっている。税制優遇措置がなくなるため、農地として残すメリットがなくなり、一気に宅地化が進むと見られているのだ。都会に残されたわずかな畑も近い将来消える運命にあるというのは、当事者でない自分には寂しく感じる。ちなみに、生産緑地の数は東京都が最多である。この「2022年問題」もまた、変革期の東京の風景を大きく変える要素の一つになるであろう。
生産緑地帯の先に、調布駅周辺のビルが見えてきた。旧甲州街道沿いに栄えた調布駅前は、歴史のある中心市街地だ。これまで見てきた個人商店が密集する商店街がある東京の私鉄沿線的な駅前風景とは異なり、デパートや飲食店街、役所、神社といった都市機能が集約された地方都市の中心市街地の風景に近い。この風景を見て、僕は本格的に"東京"を出たという感慨に耽ることができた。次回は、さらに多摩地区の深部を横断し、自然との邂逅を果たしたいと思う。
今回の行程:明大前─調布駅前(https://yamap.com/activities/3204223)
・歩行距離=15.71km
・歩行時間=7時間1分
・高低差=50m
・累積高上り/下り 449m/480m
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