コラム

若い世田谷にも押し寄せる高齢化の波

2019年03月13日(水)16時30分

◆調布の町のコントラスト

京王線の調布市の最初の駅が仙川。今回は通過しなかったが、駅前は近年再開発が進んでいて、オシャレスポットになっている。僕も仙川のオシャレなカフェで何度か、音楽部門や高偏差値で有名な桐朋学園ゆかりのハイソサエティな方のインタビューをしたことがある。

その次のつつじヶ丘には親戚宅があって、高校入学したての数ヶ月間、身を寄せていたことがある。その頃と比べて駅舎は近代的になっていたが、駅前商店街あたりの風景は当時とそう変わらない。甲州街道の北側の親戚宅周辺を訪ねてみたが、まだまだ分譲前の空き地が多かった当時と比べて住宅の密度は上がっているものの、新しくも古くもない中庸な住宅地というイメージはあまり変わっていなかった。

2_190302074.jpg

仙川

2_190302085.jpg

つつじヶ丘

隣の柴崎駅周辺は面白かった。「調布の下町」といったところだろうか。八百屋と自転車が混ざった「自転車を売る八百屋(野菜を売る自転車屋)」といったほのぼのとした気分になる個人商店がまだ健在で、墨田区の向島あたりのイメージと重なる。駅を離れると1980年代後半から90年代前半的な、つつじヶ丘よりも少し古そうな住宅街となり、その先に忽然と超近代的なタワーマンションが現れた。その脇にある国領駅は2012年に地下化された洗練された駅舎で、昭和っぽい地上駅の柴崎とはかなりのコントラストがある。

京王線に沿って調布市内を歩いたのは今回が初めてだったが、駅によって町の雰囲気が異なり、戦後の日本の都市風景が小さく凝縮されたような面白さがあったのは意外だった。電車通勤だと、なかなか面や線で自分たちの街を捉えることができないけれど、ゆっくり歩いてみると都市のコントラストを鮮明に捉えることができる。調布市の中にもさまざまな顔があることを、案外地元の人も知らないのではないだろうか。

2_190302090.jpg

柴崎

2_190302100.jpg

国領

◆「2022年問題」で消えゆく都市農園

もう一つ、調布に入ってから目についたのは、「生産緑地」だ。要は住宅地の中にある畑なのだが、調布市に入ってから、あちこちに小さな大根畑などが現れた。一戸建てやマンションの間に埋もれるように畑が点々とする風景は、「都会」でも「田舎」でもない、ある種独特な前衛的な都市イメージすら漂う。

生産緑地とは、1991年に定められた生産緑地法に基づき、都市の農家と畑を残すために、固定資産税が農村部の一般農地と同様に極めて低く抑えられた土地だ。税制面で優遇される代わりに30年間の営農義務が課せられている。今、その多くが2022年に期限切れとなることが不動産業界で話題になっている。税制優遇措置がなくなるため、農地として残すメリットがなくなり、一気に宅地化が進むと見られているのだ。都会に残されたわずかな畑も近い将来消える運命にあるというのは、当事者でない自分には寂しく感じる。ちなみに、生産緑地の数は東京都が最多である。この「2022年問題」もまた、変革期の東京の風景を大きく変える要素の一つになるであろう。

2_190302101.jpg

調布駅近くの生産緑地にて

2_190302102.jpg

背後に高層マンションが見える調布駅近くの生産緑地。この旅で初めてトラクターを見た

生産緑地帯の先に、調布駅周辺のビルが見えてきた。旧甲州街道沿いに栄えた調布駅前は、歴史のある中心市街地だ。これまで見てきた個人商店が密集する商店街がある東京の私鉄沿線的な駅前風景とは異なり、デパートや飲食店街、役所、神社といった都市機能が集約された地方都市の中心市街地の風景に近い。この風景を見て、僕は本格的に"東京"を出たという感慨に耽ることができた。次回は、さらに多摩地区の深部を横断し、自然との邂逅を果たしたいと思う。

2_190302103.jpg

調布駅

2_190302104.jpg

調布駅北側の旧甲州街道

map.jpg

今回歩いた明大前--調布駅前のルート:YAMAP活動日記

今回の行程:明大前─調布駅前(https://yamap.com/activities/3204223
・歩行距離=15.71km
・歩行時間=7時間1分
・高低差=50m
・累積高上り/下り 449m/480m

プロフィール

内村コースケ

1970年ビルマ(現ミャンマー)生まれ。外交官だった父の転勤で少年時代をカナダとイギリスで過ごした。早稲田大学第一文学部卒業後、中日新聞の地方支局と社会部で記者を経験。かねてから希望していたカメラマン職に転じ、同東京本社(東京新聞)写真部でアフガン紛争などの撮影に従事した。2005年よりフリーとなり、「書けて撮れる」フォトジャーナリストとして、海外ニュース、帰国子女教育、地方移住、ペット・動物愛護問題などをテーマに執筆・撮影活動をしている。日本写真家協会(JPS)会員

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story